家族だからこそ「あきらめる」判断 前国立がんセンター名誉総長・垣添忠生氏④

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国立がんセンターの元総長として、いえ、自分自身ががんを患い、妻をがんで亡くした者として、より多くの人に、がんの正しい知識を身に付けてほしいと願います。

がんは、日本人男性の2人に1人、女性の3人に1人がかかる病気です。が、前回話したように、検診などで早く見つければ、完治する可能性は高い。がん検診をしっかり受けること、これがまず重要なことです。

次に強調しておきたいのが、たばこを吸わないこと。たばこを吸う人が、がんで死亡するリスクは、吸わない人に比べて男性で2倍、女性で1・6倍あります。特に喉頭がん、膀胱がん、肺がんでは、男性で5倍前後と高い。女性も肺がんで4倍、口唇がんで2倍です。肺だけでなく、のどや膀胱でも、たばこががんを引き起こす要因となっているのです。

「あきらめる」瞬間があってもいい

日本人男性の現在の喫煙率は約40%。ピーク時に比べ半減したのですが、それでも欧米先進国の倍です。たばこを長年吸ってきた人でも、禁煙後の年数が長くなるほど、がんのリスクは下がります。一日でも早い禁煙が、がんの発症を防ぐのです。

食生活に気をつけることも、がんの予防には大切です。人によって、ポリープができやすい体質の人がいます。私もそうで、大腸がんになりました。こういう人はカロリーを体内にため込まないことが重要です。

私はお酒をよく飲むのですが、酔いがさめたころ、何千歩と歩いてカロリーを放出しています。野菜や果物をたくさん取ることも、がんの予防につながります。また、日本人に胃がんが多いのは、食塩の濃度が高いものを食べる習慣があるからと言われています。塩っ辛いものは、あまり食べないほうがいいでしょう。

 最後に、がんの方を見守る人に、お話ししましょう。

がんの治療には、とても痛くてつらいものがあります。患者さんのみならず、家族の方、医師にとっても、非常に苦しい選択です。そういうつらい治療をどこまで続けるか。私は、ずっと努力してきても治らないという状況であれば、「あきらめる」瞬間があってもいいと思っています。

さまざまな治療を行い、残っている方法はつらいものしかないというのであれば、その治療法で頑張ろうと患者さんに言わなくていいと思う。私は妻につらい治療をさせてしまいました。

妻は、本当は「もうそっとしておいてください。できるだけ苦痛のないようにしてください」と言いたかったのかもしれない。家族だからこそ「あきらめる」判断をしてあげることが必要なのかもしれません。

週刊東洋経済編集部
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