(第20回)外需依存に関する政治経済学的バイアス

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 それは、為替介入を止めると、為替レートが円高に復帰してしまうという問題があったからである。すでに述べたように、日本の物価上昇率と名目金利が外国より低ければ、購買力平価からみても金利平価からみても、長期的には円高が進行する。だからこれは別に不思議なことではない。むしろ、当然の事態である。

実際、98年後半から再び円高が進行した。このため、企業利益は再び減少に転じ、税収も減少した。そしてこれに対応するため、99年にかなり大規模な介入がなされた。

介入の経緯を為替レートの変化と比較してみると、1ドル=100円が目安と考えられていたことがわかる。それを超えて円高が進行すると、ドル買い介入が行われているのだ。

以上で述べたように、円安政策によっても、日本経済の積極的・持続的拡大は実現しなかったのだから、これは経済拡大策というよりは、輸出企業への補助金と考えるべきだろう。

最も重要なのは、この政策に頼れば、構造改革を回避しうることだ。産業構造を転換するには、大きな犠牲とコストが必要とされる。80年代のアメリカでは、そうしたコストを払いながら、製造業からの撤退がなされた。しかし、産業構造が転換する過程では、失業率は高まり、企業の倒産も発生する。地域経済への影響も大きい。

それに対して円安で輸出が伸びれば、製造業は従来のビジネスモデルを継続できる。日本の社会では労働力の企業間流動性がきわめて低いので、企業の存続は最も重要なこととみなされるのである。だから、仮に効果が一時的であるとしても、円安は歓迎される。これは、麻薬のようなものである。

こうして、外需に依存する傾向はその後も続き、03年の史上空前の大規模なドル買い介入につながってゆく。

「コストがかからない」理想的な税収増加策

企業利益が増加すれば、法人税収が増える。だから、財務省からみても、円安は望ましい。

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