自己中心型「イラ菅」の浅慮、拙速

自己中心型「イラ菅」の浅慮、拙速

塩田潮

 「現職首相の前首相否定」は政界では珍しくない。

 田中首相の次の三木首相は「田中君と同じことはいっさいやらないし、手を着けなかったことならなんでもする」と言い放った。中曽根首相は前任の鈴木氏に極めて冷淡な態度を取り、鈴木氏は後に「中曽根降ろしの鬼」となった。最近では福田康夫首相と前任の安倍氏、麻生首相と前任の福田氏も微妙な関係だった。菅首相も真っ先に「鳩山政治の否定」「鳩山流の裏返し」を打ち出した。

 第1は首相官邸の強化だ。極言すれば「首相の『政治とカネ』問題の対策係」が主任務だった平野氏に代えて、交渉力にも富む知謀家で切れ者の仙谷氏を起用し、「大官房長官型」官邸を目指した。

 第2は「鳩山・仮免政権」を縛っていた「連立による束縛」「マニフェストの束縛」「財政危機による束縛」の3つの束縛からの脱却に挑んだ。連立維持最優先だった鳩山内閣とは異なり、まず国会会期延長問題で国民新党を袖にした。マニフェストも全面見直しに踏み切る。「脱官僚」「政治主導」の言葉が消えた。

 極め付きは財政問題だ。なんと消費税増税の協議開始を言い出した。「任期中の増税なし」を明言し続けた鳩山前首相とは正反対である。鳩山氏には「増税なし」が選挙に有利という計算もあったが、増税の前に改革を断行しなければ、国民は支持しないという判断が働いた。

 一方、「長期・本格政権」狙いの菅首相は、財源確保と「予算編成の危機」の乗り切りのために財務省寄りの路線に舵を切った。「苦い薬」は選挙前に提示しておかなければ「長期・本格」の足かせになると読んだのかもしれないが、早くも支持率低落が始まった。

 持論だった「総予算の全面組み替え」もやらず、与党内の議論も世論動向の点検も国民への十分な説明も省略して独走すれば、消費税政局で沈んだ大平首相や橋本首相と同様、「短命・挫折政権」の道をたどりかねない。

 自己中心型の「イラ菅」の浅慮、拙速が顔を覗かせたか。
(写真:尾形文繁)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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