地政学リスクより、米長期金利上昇圧力が焦点 8月は下振れか底ばい、国内株本格上昇は9月から

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第2点として、足元の景気指標のもたつきだ。価格が高く、消費増税の影響を受けた国内自動車販売は、4月を底に、7月まで回復基調にある。したがって、消費増税の影響を過度に懸念する必要はないだろう。しかし、他の経済指標で、百貨店売上高やスーパー売上高の前年比など、5月より6月が悪化しているものが目立つ。この背景には、6月のゲリラ豪雨の影響や低めの気温といった天候要因があるため、過度の懸念は無用だが、それでも力が出る経済データとは言いにくい。

内需における消費増税の影響だけではなく、輸出の伸び悩みも気にかかるところだ。一時は「円安になれば万事解決」といった暴論が横行していたが、それが誤りだった、ということだろう。鉱工業生産の6月の下振れも、内需だけではなく、輸出の不振も影響しているとみられる。

こうした6月分の諸統計を見て、エコノミストは一斉に予想を下方修正し始めた。4~6月の実質経済成長率(前期比年率ベース)は、7/10付のESPフォーキャスト調査では、42人のエコノミストの平均で4.9%減であったが、7月末~8月上旬付の各マスコミによるエコノミストへの聞き取りでは平均で7.1~7.2%減だ。近年の最悪記録が、2011年1~3月の6.9%減(東日本大震災時)であったため、それより悪い可能性があると言える。

4~6月の実質GDPの発表日は8月13日で、数字の悪さは既にかなり市場に織り込まれているとも言えるが、株価の好材料とは考えにくい。

このように、8月の大部分は、経済統計面から株価を押し上げる材料は期待しづらい。ただ月次統計で、8月下旬に発表が多い7月分の統計が、6月分に比べて持ち直せば(天候要因を踏まえると、その可能性は高いように思われる)、それ以降は経済統計発表が、株価の刺激材料となる展開が期待される。ちなみに、トヨタも8月5日引け後の決算発表記者会見で、「7月の国内販売はほぼ前年並みまで回復してきた」との説明をしている。

為替にも要注意

第3点として、円高の可能性も考える必要がある。前述の、米国の4~6月のGDP統計の強さを見てから、いまさらのように、「米国経済が強いから米ドル高」と唱える向きが増えていた。これは、かえって米ドル安・円高に向かうサインだった。

8月15日には、米国債の利払いを控えており、これも円高材料に使われる可能性がある(実際には、米ドルで受け取った金利を、米ドルのまま再投資することが多いため、円買いはそれほどは発生しないはずだが、円買いの口実とはなりうる)。

前述の、長期金利上昇が急速に進むリスクと絡めて円相場を考えると、先週は、「米景気が強い→米長期金利上昇→米債投資のインカムゲイン(利回り益)増大を受けて米ドル高」という市場の反応であったが、米長期金利の上昇スピードが速いと、「米景気が強い→米長期金利急上昇(米長期債価格急落)→米債投資のキャピタルロス(売買損)を受けて米ドル安」に相場付きが化ける可能性があり、警戒するべきだろう。

長い目では、米長期金利の上昇が速かろうが遅かろうが、上昇の理由は米国の景気がよい、ということであるから、米ドル高・円安のトレンドを想定してよいだろう。ただし長期金利上昇が速い場合、短期的な米ドル安・円高のリスクには留意したい。
 

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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