岐路に立つソフトバンク、米国戦略次の一手 Tモバイル買収白紙で暗礁に乗り上げた

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Tモバイル買収が白紙撤回になったことで孫社長肝いりの米国戦略も転換せざるを得ない状況にある。

米国市場はベライゾン・ワイヤレスとAT&Tの2強が約7割のシェアを占める寡占市場。ただ、昨年以降、Tモバイルは他社から乗り換えるユーザーに対して積極的なキャンペーンを展開し、契約数を急速に伸ばしている。14年4~6月期の契約純増数は、ベライゾンが1~3月期比142万件、AT&Tが同102万件、Tモバイルも同147万件と互角以上の戦いを繰り広げている。一方、スプリントは同33.4万件の純減と独り負け状態だ。6月末の全体の契約数は5455万件。Tモバイルとの差は約400万件で、今年度中に抜かれる可能性も浮上している。

スプリントは格安戦略に転換か

いつもは1時間近くあるプレゼンも30分程度。やや意気消沈気味?(撮影:梅谷秀司)

こうした中、今後のスプリントの戦略について、孫社長は8日、コスト削減とともに積極的な販売戦略を打ち出すと明言した。「これまではネットワークの品質が悪かったため販売合戦を避けてきたが、他社と遜色ないレベルに改善できた。今後は打って出る」(孫社長)。これに伴い、11日にはダン・ヘッセ氏(07年に就任)からブライトスターの創業者であるマルセロ・クラウレ氏にCEOを交代。クラウレ氏について、孫社長は「販売について非常に強い才覚がある。山賊のような顔で、まるでストリートファイターだ。彼が中心となって経営することで、スプリントは面白い会社になる」と太鼓判を押した。

あくまで「ネットワーク品質が改善したので戦略を転換する」との説明だが、実際にはTモバイルの買収を中止したことで、同社に配慮することなく価格競争を仕掛られるようになったということだろう。ただし、LTE網への投資を継続し、コスト削減を徹底し、顧客を獲得することは容易ではない。クラウレ氏は就任当初から厳しい舵取りを強いられることになる。

気になったのは、この日発表会に登場した孫社長に、どこか覇気がなかったことだ。毎回、1時間ほどのプレゼンをこなしてきたが、この日はわずか28分で終了し、質疑応答も終始、淡々とこなした。すでに次の一手を思い浮かべているはずだが、はたしてどうか。孫社長はかつて「ヤバイと思ったとき、撤退は早ければ早いほどいい」と語っている。今後、スプリント売却といった選択肢も含めた大胆な戦略転換の可能性もある。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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