日本に年300ものイルカやクジラが「漂着」する謎 解剖することでその理由が見えてくる?

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日本では年間300ものクジラやイルカが海岸に打ち上げられているという(写真:iNaluPhoto/Stock)
進化の過程で陸から海に戻り、なお哺乳類であり続けることの過酷さ。エラ呼吸へ移行せず肺呼吸を続け、生まれた赤ん坊を海面へ押し上げて呼吸させ、海中へ戻して授乳する。不都合の多い海で哺乳類として生き続ける姿に、著者はシンパシーを感じるという。何らかの理由で、彼らが海岸に打ち上げられる現象「ストランディング」。その謎に挑んでいる。『海獣学者、クジラを解剖する。~海の哺乳類の死体が教えてくれること』を書いた国立科学博物館動物研究部研究主幹の田島木綿子氏に詳しく聞いた。

日本では年間300件のストランディング

──クジラやイルカのストランディングが年300件もあったとは。

報告された数だけです。海岸に打ち上げられ、誰も気づかないまま海の藻くずと化した個体も多数あるはずで、実際の数はもっと、それこそ倍以上かもしれません。

同じ島国のイギリスでは年500件報告されています。日本との数の差はストランディングに対応する各地の協力体制やネットワークの普及度の差。欧米ではストランディング個体を海の哺乳類の調査・研究に生かす重要性が早くから認識され、国を挙げて取り組んでいる。そういう意味で、日本で年間300体が打ち上げられている事実を、われわれ研究者が皆さんに広く知ってもらうよう努力しなきゃいけない、と強く思います。

──ストランディング調査はまず、時間との勝負とか。

死体で漂着するケースが多く、腐敗が進むと病理解剖が難しくなる。さらに地元自治体にはその死体を粗大ゴミとして処理する選択肢がある。法律がないので、打ち上がった個体を調査に回す義務はありません。臭いし汚いし、住民から苦情も来るし、粗大ゴミとして捨てるのを否定はできない。でもそこで「ちょっと待ってください」と。とくにクジラやイルカは、われわれが調査のためにモリで突いて捕ることなどできない。それなら、打ち上がった死体を活用しない手はない。そこから得られる情報はとても貴重なんです。

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