クック体制でアップルの均衡崩れつつある 『沈みゆく帝国』著者、ケイン岩谷氏に聞く(後編)

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 その弊害が形となったのが、(iPhone5から標準搭載した地図アプリの開発に失敗した)iOS責任者だったスコット・フォーストールの排除だ。フォーストールはジョナサンに次ぎ、ジョブズのビジョンとイノベーション精神を受け継ぐ人物として見られていたし、彼はそのうちアップルのCEOになると考えていた人もいた。簡単にクビにしていい人材ではなかった。

中国の労働問題はクックに責任

――経営幹部の中では、誰に注目をしていますか。

アップルストアを築き上げたロン・ジョンソン(11年にアップルを退職)は周囲からの信頼も厚かった(写真は銀座のアップルストア、撮影:梅谷秀司)

今の経営幹部ではないが、アップルストアを築き上げたロン・ジョンソンだ。カリスマ性、リーダーシップを兼ね備えており、アップル内のスタートアップ的位置づけでアップルストアを立ち上げた経験がある。言うならばアップルの中で独立した経営を許されていた数少ない人物だ。周りからの信頼もされているし、アップルをイノベーティブな会社に戻そうというなら、私はジョブズの後任はクックではなく、ジョンソンの方が良かったと思っている。

ジョンソンはクックがアップルのCEOになる数カ月前に百貨店のJCペニーのCEOになり失敗し、CEOを退任しているが、元々倒産しそうな会社だったのでしょうがない面がある。アップルは彼を呼び戻したら良いのではないか。

――書籍で印象的だった部分に話を移らせてください。アップルの主要サプライヤーだったフォックスコン(鴻海)の中国工場で自殺者が相次いだ問題や、環境汚染が進んだことについて、その原因の源はクックにあったとしています。しかし、これは当時CEOだったジョブズにも、責任の一端があったのではないでしょうか。

私は違う見方をしている。サプライチェーンについて全権を委任されたのはクックでジョブズはこの業務にノータッチだったため、クック自身が引き起こした問題だと思っている。現在は、当時より労働・環境問題は改善しているし、クックも当時から細心の注意は払ってきたはずだ。ただ、この問題について、「クックがジョブズ時代の片付けをさせられた」という報道をされていたことには違和感がある。自分の裏庭で起きたことを自分で解決せざるを得なくなっただけだ。

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