金融危機のミクロ経済分析 細野薫著~正しい政策を示唆する 銀行危機長期化の実証分析

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金融危機のミクロ経済分析 細野薫著~正しい政策を示唆する 銀行危機長期化の実証分析

評者 河野龍太郎 BNPパリバ証券チーフエコノミスト

 銀行危機の解決までに要する期間は約4年。これは世界の常識だが、なぜ日本は10年以上の年月を要したのか。本書は、銀行や企業のミクロデータを用い、日本の金融危機の要因、実体経済への影響などを客観的に明らかにしたものである。

不良債権問題の長期化は、銀行が会計操作を行い返済不可能な貸し出しを継続したことが原因であったことが示される。BIS規制上の自己資本比率が達成されていても株価から計算される自己資本比率は低く、両者の乖離が大きい銀行ほど多くの不良債権を抱えていた。市場は問題を見抜いていたが、裁量行政が銀行の会計操作を助け、問題解決を遅らせたのであろう。

それでは、なぜ問題は解決に向かったのか。地価反転の影響もあるが、繰延税金資産の圧縮など会計基準の厳格化が大きく影響したことが示される。興味深いのは、公的資金投入による資本増強は、不良債権減少に寄与しなかったという実証結果である。公的資金投入の条件として、中小企業向けの貸し出し増強などを銀行に要請していたことなどが影響したのであろう。

日米の金融危機を踏まえて、あるべき金融規制・監督と金融政策も論じられる。日本固有の問題としては、銀行の株式保有が景気循環増幅問題を引き起こすこと、政府系金融機関の存在がリスクに応じた金利のプライシングを阻害し民間金融機関の経営に悪影響を及ぼしていること、国債大量発行が財政不安を通じ金融システムの不安定要因になり得ることなどが指摘される。改革の方向は明らかだが、民主党政権誕生後、公的信用保証枠の引き上げ、郵貯の預入限度額の引き上げ、融資条件の変更制度の導入、国債の大量発行の継続など、正しい政策が行われていると言えるだろうか。

関係者必読の書である。

ほその・かおる
学習院大学経済学部教授。1961年京都府生まれ。京都大学経済学部卒業。米ノースウエスタン大学経済学修士。経済企画庁(現内閣府)、大蔵省(現財務省)、一橋大学経済研究所、名古屋市立大学経済学部などを経る。

東京大学出版会 5040円 331ページ

  

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