美容サロンも「FREE」の時代に?《それゆけ!カナモリさん》

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 無料サービスでかかる費用といえば、若干の整髪剤のコストぐらいで、多くは技術料だ。顧客が引きも切らず来店し、スタッフの手が空かない状態であれば無料客は収益低下につながるが、昨今そんな状況ではないだろう。手が空いているスタッフをどんどん使ってサービスを提供し、顧客を再来店させるべきなのだ。

 来店頻度を高め、スタッフやサロンとの関係性を深めれば、さらにオイシイ状態を作り出すことができる。

 来店して、カットをする。それが最低限の取引だ。相談に応じ、アドバイスをすることによって、ちょっと冒険してみようかという気に顧客がなる。パーマやカラーの利用を獲得できる。さらにヘッドスパの利用を促進することができたり、一般のドラッグストアでは販売していないシャンプーやトリートメントなどの物販の可能性も高まったりする。

 つまり、関連商品の販売である「クロスセリング」によって、1顧客、1来店における売上げだけでなく、利益率向上を図ることもできるのだ。田谷の決算短信を見ると、売上げ以上に営業利益が大きくへこんでいる。それをカバーする狙いも当然あるのだろう。

 この事例は、美容サロンの再来店促進による売上げ・利益回復施策というだけの意味合いではない。もはや日本市場の縮小傾向は人口動態から明らかだ。真っさらな新規顧客が呼び込めるというのはもはや幻想に過ぎない。果てしない競合との顧客の取り合いが繰り返される世界になっているのだ。しかも、景気が回復したとしても消費者の購買欲求が元の水準に戻ることはないといわれている。であれば、顧客をいかにケアして囲い込み、利用促進の提案を行うかは、全業種共通の課題となってくるのである。

《プロフィール》
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2010年6月11日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。
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