東京電力が見せた"再値上げ回避"への覚悟 原発なし、給与引き上げでも第1四半期は経常黒字に

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再値上げについて、広瀬社長は会見でこう述べている。「北海道電力が再値上げを申請した。当社も柏崎刈羽が動いていないので大変厳しい。ただ、値上げして顧客に迷惑はかけたくない。繰り延べた修繕費が回ってくる分、今期は厳しいが、さらなるコストダウンがどこまでできるのか、もう少し見極める必要がある」。できるだけコストダウンでカバーすることにより、再値上げを回避する方針を示したものだ。

原発なしでも赤字体質から脱却

今回の決算を見る限り、あくまで賠償負担を除いたベースだが、東電が原発稼働なしでも赤字体質から脱け出しつつあるのは確かだ。これまでのコストダウンの効果が見て取れる。2つのガス火力発電所をコンバインド化しただけでも年間400億円以上の燃料費削減効果が見込める。コストの割高な石油火力発電の抑制によっても燃料費は減る。

競争入札導入などを通じた資材の調達改革の成果が出つつあり、現在検討中の燃料調達や発電事業の包括的アライアンスを通じたコストダウンも中長期的に期待される。原発なし、再値上げなしでも経常黒字を定着させる力は高まっている。コスト競争力という点では、関西電力や北海道電力などと差が広がっているものと考えられる。

広瀬社長の覚悟のほどはいかに(撮影:尾形文繁)

それに、人材流出抑制策とはいえ、社員の年間給与水準を引き上げる以上、顧客の負担を増やす料金再値上げは何としても避けるという覚悟が、東電自身にもあるはずだ。

顧客は2012年の料金改定に加え、燃料費調整制度を通じた円安や燃料単価上昇の転嫁によって、電気料金高騰に苦しんでいる。コストダウンがうまく行けば、顧客としても当然、還元を望む声が高まる。

そもそも若手の人材流出の原因は、給与減額など「金目」の問題だけではないだろう。東電社員が責任感や使命感、将来の展望を持ち続けるためには、経営陣の責任も大きい。それだけに、給与を引き上げる以上は相応の覚悟が必要になる。そのことは広瀬社長も重々わかっているはずだ。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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