「同学歴夫婦」が、"幸せな関係"を築くまで 妻、まさかの決断。そして「夫への嫉妬」が消えた!

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「最初はのんびり自宅で勉強していたのですが、これでは受からない、と思って外で勉強することにしました」

試験勉強の5年間を支えた、夫の本心

専門の塾に通い、自習室や漫画喫茶の個室、ファミリーレストランを利用して、仕事帰りに週2回、勉強を続けた。少ない時でも3時間。長い日は18時から23時まで集中して勉強した。

仕事と子育てをしながら、勉強すること5年。この時間、娘さんはどうしていたのかというと、夫が見ていた。午前様帰りではなかったのか…と思いきや「夕食も作って食べていたみたい」と真理子さん。完璧にできる妻が見ていると動きづらいが、他に誰もいなければ、夫は料理も育児もこなす能力はあったのだった。

穏やかでかわいらしく、料理上手な真理子さんが、一度だけ、夫に八つ当たりしたことがある。弁理士試験に落ちた時のことだ 。「もっと時間があれば受かったのに!」と言うと夫は「ごめんね……」と答えた。後で真理子さんは「八つ当たりだった」と思って「ごめんね」と言ったそうだ。

ちなみに結婚以来今まで、真理子さんは「外に出すぎと言われたことはありません」。外で働く真理子さんが主婦だった姑と意見の相違があった時、夫は「後で言っとくから」と話していたという。 週 2回、夜の家事育児を丸ごと夫に任せてみて分かったこと。それは彼には「妻に仕事で頑張ってほしい」気持ちがあった、ということだ。言葉数こそ多くないようだが、その表現と行動からは、確かに思いやりが伝わってくる。

弁理士試験に受かって以来、真理子さんは夫の行動に全く不満がなくなった。もともと「受かったらあとは全部私がやるから、この期間だけサポートして」と話していた。今は夫が「遅くなろうが連絡なかろうが平気です。でも、面白いのは、そう思っていると早く帰ってくるし、連絡もしてくれるんですよねえ…」。

資格を持った今、真理子さんは裁量権を持って仕事ができる。自分でペースを決め、必要に応じて仕事を持ち帰ったり在宅作業したり。専門性が高く緊張感も伴うが、やりがいのある仕事を自分の裁量で進められるのはとても気持ちがいい。「成果が見えやすく、家族の事情で休みを取れる。本当に働きやすいです」。

今後も居心地の良い今の職場で働き続けてもいいし、夫の勤務地が変わり家族で一緒に行くことになれば、そこで開業してもいい。「やりたいこと」と「専門性」、そして「家族のニーズ」が一致する仕事を見つけるという、複雑な連立方程式が解けたこと。そのために夫の力を借りたことによって、夫婦関係は、よりスムーズに強固になった。

娘が小学生になってからは「朝、ひとりで登校してくれるので、夫婦で朝、話ができます。話す時間があると、けんかになりません」。先日は家族で「アナと雪の女王」を見に行ったそうだ。

治部 れんげ ジャーナリスト

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じぶ れんげ / Renge Jibu

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。日経BP社、ミシガン大学フルブライト客員研究員などを経て2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、日本ユネスコ国内委員会委員、日本メディア学会ジェンダー研究部会長、など。一橋大学法学部卒、同大学経営学修士課程修了。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館)、『ジェンダーで見るヒットドラマ―韓国、日本、アメリカ、欧州』(光文社)、『きめつけないで! 「女らしさ」「男らしさ」』1~3巻(汐文社)等。

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