意外と知らない保育園「公立と私立」何が違うのか 減少傾向の公立保育園が担う「社会的役割」とは

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公立の強みを理解している自治体では、公立を地域の保育・子育て支援の拠点として位置づけ、私立保育所その他の民間のサービスの支援や指導に当たらせたり、家庭支援、特に困難をかかえる子どもや家庭への支援を率先して行う役割を担わせたりしています。

私立にも子育て支援や障害児保育などに積極的に取り組み、地域の児童福祉施設としての役割をしっかり担っている園はたくさんありますが、正反対の園もあります。集団保育になじみにくいというだけで子どもや家庭に転園を迫ったケースもありました。そうしたケースも含め、保育施設が急増した地域では特に、今後、私立の事業者の姿勢や保育の質についての課題が顕在化していきそうです。

課題をかかえる施設を指導・支援していくためには、市区町村自身が現状を把握し、課題を理解し、専門性を備えた人材を有していることが必要です。公立の施設を維持することで、人材力を蓄え、生かすことができるのです。

私立新設園の園長には「公立出身」が多い

保育士不足が社会問題になり、国も保育士の処遇改善に力を入れているところですが、公立の保育士はもともと地方公務員としての処遇を受けています。地域に公立が存在することで、保育士という仕事でキャリアを積みたいという意欲をもった人材を集めることもできるでしょう。

都市部では、新設私立園の施設長に公立を退職した人が着任するケースが多いことを見ると、公立は人材育成機関としての役割も担っていることがわかります。

今後、公立保育所や公立認定こども園を、市区町村の子育て支援・児童福祉施策の手として足として目として活用していくことは、目先のコスト削減をするよりもずっと行政効率を上げ、住民に利益を還元することにつながるのではないでしょうか。

普光院 亜紀 「保育園を考える親の会」アドバイザー

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ふこういん あき / Aki Fukoin

早稲田大学第一文学部卒。保育園に子どもを預けて働く親のネットワーク「保育園を考える親の会」顧問・アドバイザー。保育ジャーナリスト。大学講師。著書「後悔しない保育園・こども園の選び方」(ひとなる書房)、「不適切保育はなぜ起こる」(2024年6月20日刊行、岩波新書)ほか多数。

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