なぜ欧州企業は、人権問題で先行するのか 日本企業が新興国で信頼を勝ち取るためには?

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企業による環境破壊が人権問題につながっている事例として挙がるのが、ロイヤル・ダッチ・シェル社がナイジェリアで行った石油採掘だ。環境汚染は飲料用水源をはじめ、地域の植物・農産物、周辺海域の漁業にも及び、先住民族のオゴニ族は強烈な抗議キャンペーンを展開した。

ところが、1995年に当時のナイジェリア軍事政権が、活動家のケン・サロ・ウィワ氏を処刑する。この事件に加担したとされたシェルには、NGOなど世界から批判が集中した。人権面を考慮しない事業活動が、結果的に大きな問題を発生させたのだ。

企業の取り組みを後押しする国際的な動きも

反対に、人権を尊重すればメリットも生まれる。社内外での人権に関する意識向上や職場環境の改善で、従業員がモチベーションアップし、生産性が増すといった効果も考えられる。働きやすい環境の提供で優秀な人材の確保や、離職率の低下も期待できる。人権問題に積極的な先進企業としての評判を、国内外で高めることができ、企業ブランドの向上にも結びつく。

企業の取り組みを後押しする国際的な動きもある。2011年3月に発表された「国連ビジネスと人権に関する指導原則」だ。2005年から国連事務総長特別代表を務めた、ハーバード大学のジョン・ラギー教授が、「保護・尊重・救済のフレームワーク」として取りまとめたものだ。

国家の義務である人権保護とともに、企業としては、「人権の尊重」、「人権侵害からの救済へのアクセス」への取り組みが必要とされている。

具体的には、人権を尊重する責任を果たすという「人権方針」の作成、人権への対処の責任を持つ「人権デュー・ディリジェンス」の実施、そして「苦情処理メカニズム」と呼ばれる救済制度を設け、その実効性の確保を企業に求めている。人権問題についての体制を整備するCSR先進企業が拠り所にしているのが、このフレームワークである。

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