見せかけの処方箋に騙されてはいけない 平川克美氏、新刊を語る

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グローバリズムは世界に、株主主権、自己責任論、市場原理主義などの思想を振りまきました。その結果、企業が時価総額主義におちいり、短期的利益を追うあまり、収穫まで時間のかかる設備投資よりも、早く結果のでる債権投資へと向かう傾向や、地道なモノづくりを軽視する風潮が生まれました。わたしは、そういった賭博的な価値観から脱却して、どうすれば成熟国家に相応しいビジネスの方向を見い出せるのかと、模索し続けてきたように思います。 

病んだ部分とどのように付き合っていくのか

――本書では、グロ―バリズムを「病」とされていますが、どのような症状をもって「病」と言われているのでしょうか?

 ビジネスというものの基本は、地道によりよい商品やサービスを作り続け、顧客との信頼関係を結び、信用という見えない資産を蓄積していくことですが、企業が短期的な利益を追うあまり、そういった基本を忘れて、手っ取り早いお金儲けに走ってしまうという傾向が90年代後半ぐらいから顕著になりました。カネでカネを買うようなビジネスが横行し、詐欺のような金融商品が出回りました。労働の結果として積み上げられた付加価値に対して、債券市場への投資回収による資本蓄積が増大していきます。

 そういった傾向の中で、労働倫理が著しく損なわれ、金銭一元的な価値観が瀰漫し、公平や公正に対する軽視の傾向があらわれ、不遇な人たちには自己責任の言葉を投げかけ、企業はコストを外部化する。あらゆる局面で異様としか思えない言説がはびこってしまったのです。

 会社はその地域、発展形態、経営者の思想などによって多様であって当然であり、会社の価値観も多様であるべきだと思いますが、すべてを単純化してしまう傾向が顕著です。株主利益を最大化することだけが企業の目的であるというようになれば、確かにすっきりとはするでしょうが、株主利益はいくつかある企業目的のうちのひとつに過ぎません。わたしは、そういった部分に過ぎないものを全てであるというようなフェテシズムを「病」と言っているわけです。

 コストダウンのために、賞味期限切れの材料を使ったり、ごみ投棄をしたりといった企業エゴは、利益至上主義を求める株主圧力に経営者が屈したという側面があります。株主主権が強すぎるわけです。

 ところで、わたしは「病」をいう言葉を、それが悪であり、取り除かなければならないという意味で使っているわけではないのです。どのような社会システムであれ、ビジネスであれ、必ず瑕疵があり、グレーゾーンがあり、改良すべき点があります。

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