「新型コロナ感染後の職場復帰」なにが正解? 「休みやすく復帰しやすい職場」のあり方とは

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なお、いずれも医療機関からの治癒証明書を職場に提出する必要はありません。PCR検査についても、陰性証明書の提出は必要ありません。
担当者は個人的な感染への不安感や恐怖心から、不必要な自宅待機や追加検査を行わないよう、このガイドラインに基づいて適切な指示を出すことが大切です。

加えて、新型コロナウイルスに感染した可能性があることを言いやすい職場づくりも大切です。「自分が感染したこと」を職場にカミングアウトすることはハードルの高いことです。たとえ軽症であっても、周囲の人が濃厚接触者となり、身近な人への不安を与えてしまうだけでなく、自宅待機によっていくつもの仕事が滞ってしまいます。

さらに(実際は参加していないにもかかわらず)飲み会やレジャー活動による感染ではないかと、いわれのない噂に晒される恐怖感や、自身の感染対策がどこか甘かったのではないかという罪悪感を伴います。風邪による休業でも「体調管理がなっていない」と責められる職場では、とても新型コロナウイルスに感染した可能性があると言い出せずに、出社し続けて感染者を増やす結果になりかねません。感染を恥じることなく速やかに報告でき、しっかりと療養して感染を拡げない職場づくりが必要となります。

「後遺症」や「差別」の問題も

さらに新型コロナウイルス感染後は、後遺症の問題もあります。ガイドライン上は感染性がなくなっても、後遺症によって出社が難しい方もいらっしゃいます。本人の復職不安や、周囲の「ずる休みではないか」という疑念を晴らすためにも担当者側のサポートが必要です。

また、職場復帰後の差別や孤立に関する相談もよくある事例です。新型コロナウイルスの感染性は発症後1週間程度で急激に低下するとされていますが、ウイルスは目に見えないものであるため、頭ではわかっていても「もしかしたら(復職してきた)この人が感染源になるかもしれない」と距離を置きたくなる気持ちは理解できます。

特に持病がある、妊娠中であるといったハイリスク者と言われる方は不安も一段と大きいと思います。新型コロナウイルスに関する知識はかなり周知されている印象ですが、変異株の出現や若年者の重症化率上昇など、現在も常に不安要素が出てきている状況です。しかしその不安を職場復帰してきた人にぶつけてしまっては、根拠のない差別をすることにつながってしまいます。

職場の担当者は、職場復帰をした方のメンタルケアのみならず、こうした周囲の従業員の相談窓口を設けることが大切です。ハイリスク者への感染予防の配慮を行うことは、前述のガイドラインでも示されています。具体的には産業医との面談機会を設ける、不特定多数との接触業務を避ける、換気のよい場所に配置転換をする、などがあります。

新型コロナウイルス感染症は誰でも罹患しうるものだからこそ、お互いの不安を解消し、思いやれる職場を目指していただけたらと思います。

上原 桃子 医師・産業医

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うえはら ももこ / Momoko Uehara

横浜市立大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構理事。身体とこころの健康、未病の活動に尽力し、健康経営に関する医療系書籍の編集にも関わっている。医師と患者のコミュニケーションを医療関係者、患者双方の視点から見つめ直すことを課題とし、とくに働く女性のライフスタイルについて提案・貢献することを目指している。

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