さようなら、"ミスター牛丼"と呼ばれた男 安部修仁と吉野家の時代

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(撮影:風間 仁一郎)

安部がそう言いきれるのは、まだ一社員だった1980年に吉野家の倒産を経験しているからだ。

120億円の負債を抱えて1980年7月に東京地方裁判所へ会社更生法の適用を申請し、事実上の倒産。この原因はどこにあったか。店舗の急増に対応するため、つゆを粉末に変更したこと、輸入牛肉の供給不足のためフリーズドライの乾燥牛肉の利用に踏み切った事など、店舗増を最優先したことから味の悪化が進み、そのことがファン離れをもたらした、といわれている。

しかし、安部は倒産の根因はほかにあったと考えている。「最大の原因は内部分裂ですよ。組織が一体感を持ってある方向に向いていれば、何があっても決定的にダメになることはない。だからBSEの時も、社員の不安を払拭する、われわれがやっていることに意義がある、こうするとこうなるということを節目、節目で伝えるようにした」

倒産当時のエピソードを、安部と旧知の仲で日本フードサービス協会顧問の加藤一隆はこう明かす。

「吉野家のお客さんを誰が守るのか!」

「倒産前後は、たくさんの企業が吉野家の優秀な社員を引き抜こうと説明会を開催していました。ある説明会で人事担当者の話が終わったあと、安部ちゃんは強く言ったらしいです。『吉野家に来てくれているお客さんを誰が守るんですか!』ってね」。

「再建期間中に培ったものは、BSEの時も生きたと思う。厳しい環境下でも成果はいずれ出せるというような確信が持てたのも、そのときの経験があったからです」。そう言って笑う安部だが、次のようにも明かした。「ときどき、ふっとね。一人のときですけど。本当にいつか日の目をみるんだろうか、という気持ちになりました」。

=敬称略=

入社して42年、吉野家の浮沈をすべて見てきた男の人生に迫る14ページ。「オヤジ」と慕った人物、二卵性双生児と言われた男の存在、社長復帰の秘話、そして牛すき鍋膳に込めた思い……。
週刊東洋経済2014年8月9・16日号』(8月4日発売)は、120分のロングインタビューも含め、安部修仁の物語をお届けします。
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又吉 龍吾 東洋経済 記者

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またよし りゅうご / Ryugo Matayoshi

2011年4月に東洋経済新報社入社。これまで小売り(主にコンビニ)、外食、自動車などの業界を担当。現在は統括編集部で企業記事の編集に従事する傍ら、外食業界(主に回転ずし)を担当。趣味はスポーツ観戦(野球、プロレス、ボートレース)と将棋。

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