2015年の相続増税より本当に怖い話 もめるのは“母の相続”と遺産の「分け方」

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ただ、実はここに落とし穴がある。母の相続(二次相続)と父の相続の間には、平均で13年以上のタイムラグがあるのだ(税理士法人レガシィ調べ)。

子は結婚し、自分たちの家族を持ち、家を出て別の自宅を所有している場合が多い。配偶者への控除はもちろん、小規模宅地の特例(評価額を8割減らせる)も使えなくなる。そもそも母の自宅は経年劣化しており、地方の一軒家では買い手もつきづらい。年金生活で金融資産も食い潰してしまっているかもしれない。子に兄弟姉妹がいれば、遺産分割を巡る争いになり、相続転じて「争続」となりかねないのだ。

肝心なのは「親子の会話」

親子の間で相続の話をすることは少ないだろう。そもそも互いが成人していれば、自分の人生観や将来像について、語り合うことすらあまりないのではないだろうか。

親は子に、葬儀や相続のことで迷惑をかけたくない、先祖代々続くお墓を守っていってほしい、と切に願う。そこで怪しげな不動産投資をしてしまったり、不透明な業者と任意後見人の生前契約を結んだり、仕組み債などの複雑な金融商品を子の知らぬうちに購入してしまう。

子は親に、遺産は多くなくていいから兄弟姉妹で分けやすくしてほしい、とにかく「争続」にならないようにしてほしい、と考えている。だが、互いの興味関心すら知らないまま、親の死亡を迎えてしまう。

子は葬儀にてんてこ舞いし、相続で手間をとられる。思わぬ巨額の相続課税があるかもしれないし、不採算物件になってしまった地方のペンシルビルを相続する羽目になるかもしれない。

当たり前の話だが、「遺言書を書いてくれ」「嫌だよ、そんなもの」といったタブーにいきなり切り込む話をしているのではない。「もし認知症になったら、この家はどう管理する?」と、素直に本音で話せる話題から持ち出せばいいのではないか。

父(母)が死んで一次相続をしたずっと後に訪れる二次相続を考えるには、両親の生前からどう準備するかが前提を大きく左右するのである。そろそろお盆休みの時期、「我が家の財産をどう守っていくのか」について、腹を割って話し合ってみてもいいかもしれない。

 週刊東洋経済8月9日・16日合併号(8月4日発売)の特集は「親と子の相続」です。
2015年1月1日からの「相続増税」まで5カ月を切りました。相続の話題で親子がホンネを語るような機会はめったにありませんが、お盆休みは絶好のチャンスといえるでしょう。新たに課税される駅マップも掲載しました。⇒目次の詳細、購入はこちらから 
山川 清弘 東洋経済『株式ウイークリー』編集長兼「会社四季報オンライン」副編集長

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やまかわ きよひろ / Kiyohiro Yamakawa

1967年、東京都生まれ。91年、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。東洋経済新報社に入社後、記者として放送、ゼネコン、銀行、コンビニ、旅行など担当。98~99年、英オックスフォード大学に留学(ロイター・フェロー)。『会社四季報プロ500』編集長、『会社四季報』副編集長、『週刊東洋経済プラス』編集長などを経て現職。日本証券アナリスト協会認定アナリスト、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト。著書に『世界のメディア王 マードックの謎』(今井澂氏との共著、東洋経済新報社)、『ホテル御三家 帝国ホテル、オークラ、ニューオータニ』(幻冬舎新書)など。

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