コロナ感染再拡大「五輪の途中中止」はありうるか 政府の感染症対策に精通する専門家の答えは?

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感染症だけでは済まない、経済や社会状況を巻き込んだ『社会の病』としての新型コロナウイルスの存在。もっと言えば、岡部は当初、緊急事態宣言の発出にも反対していたという。

「昨年の3~4月、最初の緊急事態宣言に関する議論では反対していたんです。それによって、ことさらに不安になったり、職をなくしたり、うつ的になったり、子どもの心の成長を阻害したりを考えた場合、感染症だけでなく、そっちのほうの大きなマイナスも考慮しなくてはいけない、と意見を言っていた。

それが途中で“しょうがない”と意見を変えたのは、重症者を受け入れる病院がぎちぎちになって来た。第一線の医師たちから、これ以上は新たな患者は受け入れられない、断らなきゃいけない、という声があがってきた。もし断ると重症患者はあふれちゃって行き場を失うわけだし、逆に受け入れを広げると、今度はほかの病気を診られなくなっちゃう。つまり、医療崩壊が起こる。

それでは感染者ばかりでなくて、一般の人が困る。誰がいつ、ほかの病気なるかわからないからです。それはどうしても避けなければならない。全体の医療を支えなくてはいけない。そういう気持ちで、途中から賛成に回った」

そこが、岡部の考え方の基本にある。

中止を含めて臨機応変に対応できるか

そうなると最初の話に戻る。新規感染者が急増したとしても、重症者が低く抑えられているうちはいい。ワクチン接種も進んだこともあって、重症者への対応が重要となる。

それも単純な数だけで判断はできない。ここへきてオリンピック期間中には、1日に2000人、3000人規模で新規感染者が出るという予測もある。母数が増えれば、重症者の数も増す。

「オリンピックと医療機関はそれぞれが別々に動いて機能しているうちはいい。そこが関係し合って影響が出てくるのだとしたら、事態は難しくなってくる。双方のバランスの問題だ。そのときに、中止を含めて臨機応変に対応できる、ということが重要となる」

だからこそ、始まってみないとわからないところもある。深刻な事態に陥ってからでは遅すぎる。感染症の専門家にしても、予断を許さない2週間が始まる。

(敬称略)

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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