無観客「五輪会場エリア」を回って見た悲痛な現実 五輪後に重くのしかかる施設維持費という問題

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けれども、本番になっても肝心の観客は訪れない。そのことに複雑な感情を抱きつつ、路肩に車を止めて短時間、写真撮影をしていたら、「すみません」という声が聞こえた。振り返ると、そこにいたのは警察官。「ここは駐車禁止です」と指摘され、違反切符を切られるのかと思いきや、何とかそれだけで終わった。

東京五輪期間は「専用レーン」や「優先レーン」を走っていると、普通車は違反点数1点と6000円の反則金を課せられる可能性があるということで戦々恐々としていたが、車移動時は細心の注意を払わなければいけない。そのことを痛感させられた。

その有明地区には、五輪需要を見込んで昨年6月にオープンした「有明ガーデン」、同8月にオープンしたホテル「ヴィラフォンテーヌ グランド 東京有明」があるのだが、駐車場料金の特定期間もなく、五輪期間も通常運転になる見通しだ。実際、20日朝のホテル駐車場はガランとして、宿泊者が増えた気配は感じられなかった。

期間中、海外メディア関係者やボランティアスタッフは多少増えるだろうが、「それほど混雑しそうもないですね」とショップ店員も苦笑していた。今回の無観客決定で「特需」を期待していた商業施設や飲食業、観光業などは肩透かしを食らった形。丸川珠代五輪担当相は「8月下旬らのパラリンピックは状況が許せば観客を入れたい」とコメントしているが、仮に有観客にできたとしても、五輪ほどの経済効果は期待できないだろう。

バスの中から手を振る選手も

そこから選手村のある晴海方向へ移動しようとすると、豊洲大橋は通行止め。晴海大橋から晴海客船ターミナルは一望できたが、選手村に近づけば近づくほど物々しい空気が漂う。

晴海大橋から望む選手村方面(写真:筆者撮影)

唯一、心が和んだのは、交差点で隣合わせになった選手バスを撮影した際、中にいた選手が手を振ってくれたこと。彼らもバブルの中に缶詰にされ、外界との接触が叶わず、ストレスを感じているのだろう。コロナ前に想像していた東京五輪とかけ離れた現実に複雑な感情を覚えた。

そうこう言っても大会は無観客のまま始まるし、新規恒久施設や改修施設の後利用という問題からも避けては通れない。約900億円ともいわれたチケット収入もなくなり、負の遺産はますます大きくなったのだ。

バスの中の選手が手を振ってくれた(写真:筆者撮影)

その現実をわれわれは今一度、認識しなければいけない。競技会場にも入れず、イベントもない東京五輪ではあるが、どういう大会が行われたのかをできるかぎり自分の目で見て、脳裏に焼き付けておくことが肝要ではないか。

元川 悦子 サッカージャーナリスト

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もとかわ えつこ / Etsuko Motokawa

1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、1994年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。著書に『U-22』(小学館)、『初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅』『「いじらない」育て方 親とコーチが語る遠藤保仁』(ともにNHK出版)、『黄金世代』(スキージャーナル)、『僕らがサッカーボーイズだった頃』シリーズ(カンゼン)ほか。

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