「家庭教師に月40万円」教育先進国の凄まじい現実 シンガポールの「普通の家庭」も巻き込まれる

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「私の親の代では片稼ぎでもよかったけど、収入の伸びよりも物価が上がっているから、共働きをやめることは今はできない。学校にはお金がかからないけど、学校では大したことを教えてくれないから結局親は家庭教師にたくさんお金をかける。これが、すごくすごく高い。子どもに教えるのがとても上手だったら専業主婦になることもできるかもしれないけど塾のためだけに必死で働いている親は多い」

家庭教師に月40万円

この「すごくすごく高い」という家庭教師費用の半端ない金額が明らかになっていったのは、中学生のいる親にインタビューをしはじめてからだった。

シンガポールの子供たちにとって非常に大事な試験、PSLE(小学校修了試験)。これを受ける前の小学5~6年生次にかけた金額を聞きはじめた頃、思わず月額と年額を間違えたのかなどと耳を疑い、驚いたふうを出さないようにしながら再確認する必要があった。

士業の仕事に就く中華系女性Auroraさん(仮名)は、小6の長女の家庭教師に払っている月額について「5000~6000ドル」と答えた。日本円で40~48万円程度。場合によっては世界でも高いことで有名なシンガポールのコンドミニアムの家賃より高い。それを毎月、1人の家庭教師に払っているということなのか。

Auroraさんは長女のPSLEに備え、「働きながら(子育てと勉強を見ること)両方はできないから」という理由で、“フルタイムの”家庭教師を雇っていた。フルタイムの家庭教師というと、複数家庭の子どもを並行して教えるプロ家庭教師をイメージするが、Auroraさんの家に来る家庭教師は、Auroraさんの長女“専任”だった。

週5日毎日、長女が学校から帰ってくる昼過ぎから自宅に来て、夕飯を共にし、ほとんど寝る直前まで一緒にいる「もう一人母親がいる、みたいな」存在だという。

聞くとその家庭教師は、もともと友人の友人で、自分も子どもがいる中国出身の女性。中国ではワーキングマザーだったが、夫の転勤でシンガポールに来て、自分の子どものPSLEを終えたあと、することがなかったため当初は「お金は取りたくない」と無償でAuroraさんの娘に教え始めたという。

Auroraさんは彼女の働きぶりを見て、あまりの献身ぶりにまずは時給で支払いをはじめた。ところが家庭教師の女性はAuroraさんの家に来ていない時間帯も、Auroraさんの長女に説明するための資料作成や、長女が1つ問題を間違えれば、その苦手を克服するために似たような問題を持ってくるなどの準備に膨大な時間をかけていることがわかったため、月額で渡すことにした。その金額が月40万円、ということなのだ。

「こうでもしないと、仕事ができない。彼女(家庭教師)が来るようになってから、娘との関係もよくなった。親が自分で教えようとすると難しくて、親子の心理的な距離が遠くなったりするけど、家庭教師がいてくれるから、娘は今も私と近しくて、何でも話してくれる。しかもその人も(子どもを持つ)母親だから、この年齢の子どもをどういうふうに扱ったらいいかもよくわかってる」

Auroraさん夫妻は高収入カップルで、お金のある人のすることはどこの国でも極端——ということだろうか。私はそのあと、このように毎日来る家庭教師を雇っている話を聞いたことがあるかと聞いて回ったが、同じ人物に全科目と母的な役割までをも外注するケースはこれまで見つかっていない。

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