アルツハイマー「根本治療薬」専門医はどう見るか 「アデュカヌマブ」日本導入の可能性と課題は?

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――コロナワクチンの承認でも世界とのスピードの差が明らかになったのですが、今後、日本での承認はどうなるのでしょうか。

「エビデンスの観点から海外で認められているのになぜ日本だけ承認しないのかと非難されるでしょうから、拒絶できないと思います。ただし、日本特有の健康保険の仕組みの中でどう考えるかということですね。

最終的には政治的、社会的な判断になりますが、日本では約500万人といわれている認知症患者がいるので、無尽蔵にお金が使われてしまうと健康保険が破綻する危険があります。アメリカは民間の保険だから、いくら高くてもそれを組み込んだ保険商品を作ればいいだけの話で、その保険商品を買うかどうかは自由なわけです。日本はエビデンスだけで認めてしまうと、高額な薬を世界と一緒に承認、使用していかなければならない。そこは日本特有の問題がありますから、社会的、総合的、包括的にどう判断していくかが大事になってきます」

――—日本で承認された場合、治療においてアデュカヌマブを使用していきますか。高額ということですが、今後一般的に普及していくのでしょうか。

「もちろん私は(治療で)使うつもりです。日本では高額医療制度というものがあって、所得によって違いますが、自己負担が一定額を超えるとそれ以上負担をしなくてもよい制度があります。それが適用になるかどうかも左右しますね。患者さん側からの要望が強いということを踏まえると、高くても希望する人はいるだろうし、アメリカから個人輸入して使いたいっていう人だっているのではないかと思います」

今回、FDAの審査で重要なポイントとして、「MCI(軽度認知障害)」が主たる対象だったということが挙げられる。「軽度認知症」ではなく「軽度認知障害」なので、治験者は病気と診断される前の「MCI」段階だったのだ。認知症と診断されてしまうと、それは病気であり、「アルツハイマー病」になる。

「今回の治験は『アルツハイマー病』患者を対象にしたのではなく、その前段階、まだ認知症になっていない『MCI(軽度認知障害)』の人を主な対象に行った臨床試験だというところがポイントなのです。神経細胞がダメージを受け、死にかけているような状況でアミロイドβを取り除いたところで、効果はありません。神経細胞がまだ元気なうちにアミロイドβを取り除く必要があるのです。

神経細胞がダメージを受けている状態で治験を行った薬は失敗しています。アデュカヌマブがなぜ成功したかというと、前段階の時点で治験を行ったからという理由もあるのです。もし、MCIを対象にして治験を行っていれば、効果が出たかもしれないという薬はおそらく他にもあったでしょうね」

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