ソニーが圧倒的な高収益体質に大復活できた本質 エレキ地位低下の一方、グループ6事業を「掛け算」

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「掛け算」の事例はこれだけではない。東京・世田谷区の東宝スタジオには、映像製作技術「バーチャルプロダクション」の設備が導入されている。ソニーが作る大型LEDディスプレーに映像を映し、その前にセットを置いて演者が動くと、まるで現地でロケをしているような映像を作ることができる。

この設備は、ソニーの出資する米エピックゲームスが開発したゲームエンジンを使用している。演者の位置を測定し、背景を対応させることで、よりリアルな映像を撮影できる。自ら発光するLEDの特徴を生かし、水たまりの反射や眼鏡による光の屈折といったものまで表現できる。

バーチャルプロダクションを使ってCMの撮影を行うアパレルメーカー(写真:ソニーPCL提供)

ほかにも、人気ゲームを、映画製作会社ソニー ピクチャーズ・エンタテイメントの手で映画化するプロジェクトが進行中だ。2019年に設立された「プレイステーションプロダクションズ」では、人気のPS用ソフトの映画化が進められており、第1弾として2022年2月には『アンチャーテッド』の映画版が公開される見通しだ。ほかにも、『ゴースト オブ ツシマ』、『ザ・ラスト・オブ・アス』など計10本が映画化を控えており、映画事業の拠点に設けられたオフィスで、ゲームと映画のそれぞれの会社のスタッフが一つの組織に集まって協業している。

『夜に駆ける』オーディオドラマの圧倒的臨場感

ソニー・ミュージックエンタテインメントから生まれた2020年の大ヒット曲『夜に駆ける』(YOASOBI)。この原作となった小説を基にしたオーディオドラマでは、エレキ事業のオーディオ技術を活用した360度立体音響技術が採用されている。ぞっとするような臨場感が魅力だ。

このプロジェクトを担当するソニーミュージックの高山展明氏は「より生々しい、人間らしい要素を組み込めないか、コンテンツの面白さと技術の強みが一致する方法を考えた」と語る。

次々と生み出される「掛け算」事業。その収益化の方法も、単品売りで終わるのではなく、顧客の体験に訴求して製品やサービスを発展させ、継続的に稼ぐ方針を示している。

「ダメ企業」から見事生まれ変わり、再び攻めの戦略に転じつつあるソニー。快進撃を続けるうえで、エレキ企業としての過去のしがらみを断ち切り、自由な発想で挑戦し続けることができるかが肝となる。

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高橋 玲央 東洋経済 記者

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たかはし れお / Reo Takahashi

名古屋市出身、新聞社勤務を経て2018年10月に東洋経済新報社入社。証券など金融業界を担当。半導体、電子部品、重工業などにも興味。

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佐々木 亮祐 東洋経済 記者

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ささき りょうすけ / Ryosuke Sasaki

1995年埼玉県生まれ。埼玉県立大宮高校、慶応義塾大学経済学部卒業。卒業論文ではふるさと納税を研究。2018年に入社、外食業界の担当や『会社四季報』編集部、『業界地図』編集部を経て、現在は半導体や電機担当。庶民派の記者を志す。趣味は野球とスピッツ鑑賞。社内の野球部ではキャッチャーを守る。Twitter:@TK_rsasaki

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