不動産投機が過熱、「世界経済危機」が再び? 痛い目に遭うまでは好景気は続く

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危機に対する懸念は、近頃、株式市場が過去最高値をつけたことに大きく影響されているようだ。6月には世界の住宅価格とその上昇率を追跡する新たな「グローバル住宅ウォッチ」(Global Housing Watch)というWebサイトをIMFが発表した。GDP加重ベースで計算したグローバル住宅価格指数は、2008年に危機が発生する前の好況時と同じ速さで上昇しているものの、まだ2006年の過去最高レベルには達していない。

FRB(米国連邦準備制度理事会)は、景気が期待どおり拡大すれば、FOMC(連邦公開市場委員会)の10月会合後の債券購入を最後に量的緩和策を打ち切る、と発表したが、ニュース性は乏しい。

問題なのは、このような政策変更や、価格の過熱または下落の兆候、重大な結果を招きかねないその他の出来事に、人々がどう反応するかを説明する確固たる方法がないということだ。

金融危機直前の2005年には米ハーバード大学の計量経済学者、ジェームズ・ストック氏(現在は大統領経済諮問委員会のメンバー)らが、先進国経済は過去40年間に変動幅が小さくなり、互いへの依存度が低下した、と結論していた。

金融危機以降に記録されたデータを踏まえると、この結論には大幅な修正が必要だろう。危機が最悪に達した09年の景気後退は「壊滅的」というほかない。

大事なことは警告を発すること

際立ったグローバルな経済危機を、世界は過去100年間にたった3回(1929~33年、1980~82年、2007~09年)しか経験しておらず、理解するのは難しい。

この3回の深刻な危機はみな、当時大半の観測筋を驚かせ、事後にも解明されてこなかった投機的な価格変動と相関があったようだ。政府の政策策定機関の誤りとも関係があった。たとえば80年から82年にかけての危機は、イラン・イラク戦争が引き起こした原油価格の急騰が引き金となった。しかし、これら3回の深刻な危機はみな、資産価格のバブルがはじけ、金融崩壊を引き起こしたことと関連があった。

投機的な価格上昇が制限なく続くことを許せば重大な危険を招く、という警告を発するのは正しい。警告することによって、現在の好景気がさらに続き危険度が増すのを、防げるかもしれない。

週刊東洋経済2014年8月2日号

ロバート・J・シラー 米イェール大学教授

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Robert J. Shiller

ノーベル賞受賞経済学者。1972年にMITで経済学のPh.D.を取得。「資産価格の実証分析」を評価され、2013年にノーベル経済学賞を受賞。2000年に刊行された『投機バブル 根拠なき熱狂』は、アメリカのITバブル崩壊を予言した書としてベストセラーとなった。同じくノーベル経済学賞を受賞(2001年)したジョージ・A・アカロフとの共著『アニマルスピリット』も、サブプライムローンに端を発する金融危機を理解する書物としてベストセラーとなった。著書に『それでも金融はすばらしい』『不道徳な見えざる手』(アカロフとの共著)など。

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