ロート製薬が「ボラギノール」を身内にした事情 大正製薬に追いつけ追い越せで買収意欲旺盛

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買収発表翌日、ロートの株価は一時5%以上上昇。ボラギノール買収を株式市場は好感したようだ。同業他社やブランド買収を通じた多角化戦略を推し進めるロートにとって、今回の一件は渡りに船だった。

ボラギノールを手中に入れ、海外展開にも期待を寄せている。ロートはアジア地域での売上高が約3割と、国内に次いで大きな割合を占めている。1988年、アメリカのメンソレータム社買収を足がかりに、アジアでの展開を一気に加速させた経緯がある。欧米では受け入れられない座薬だが、アジア、とくにベトナム市場には開拓余地があるという。

およそ1兆円といわれる国内の大衆薬市場はすでに成熟している。その市場では、栄養ドリンク「リポビタン」、感冒薬「パブロン」などの有名ブランドを擁する大正製薬が売り上げトップを誇る。

大正はそこに安住せず、2018年末に世界製薬大手のブリストル・マイヤーズスクイーブ(BMS)の大衆薬子会社であるフランスUPSA社の買収を決めている。買収金額は1800億円と同社にとって過去最大の案件だった。

どんどん買収候補が出てくる

業界で二番手につけるロートは、目薬など強みのアイケア市場でシェア約4割を持つトップメーカーだが、これ以上のシェア拡大は難しい。一方、ビタミン剤や鎮痛剤など、市場規模が大きいカテゴリーでロートの存在感が薄い。新ブランドの立ち上げには大きな先行投資がいるため、すでに確立されたブランドの買収が有力な手立てになる。杉本社長は「これから(買収候補が)どんどん出てくるだろう」と強気だ。

その理由について、「中小の大衆薬メーカーでは市場環境の悪化や後継者が問題になってくる。医療用の新薬メーカーでも、武田のように(医薬品開発で)大衆薬事業を持つ余裕はなくなる。大衆薬子会社を抱える第一三共やエーザイはどちらも足元の調子はいいが、その先を見据えると悠長なことも言っていられなくなるだろう」(杉本社長)とみる。

武田の大衆薬事業売却に端を発するボラギノール買収は序章にすぎない。大衆薬メーカーの再編劇がまだまだ続きそうだ。

石阪 友貴 東洋経済 記者

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いしざか ともき / Tomoki Ishizaka

早稲田大学政治経済学部卒。2017年に東洋経済新報社入社。食品・飲料業界を担当しジャパニーズウイスキー、加熱式たばこなどを取材。2019年から製薬業界をカバーし「コロナ医療」「製薬大リストラ」「医療テックベンチャー」などの特集を担当。現在は半導体業界を取材中。バイクとボートレース 、深夜ラジオが好き。

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