コロナ禍の政府説明に不信感ばかり募る根本原因 「リスクコミュニケーション」の専門家が分析

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――コロナ危機は世界規模です。外国のリーダーについては、どう評価していますか。

いくつかの国のトップは優れた演説を行ったと思います。緊急時のコミュニケーションの手本として評価できるのがニュージーランドです。

2020年3月21日にジャシンダ・アーダーン首相が行った8分間のテレビ演説は、コロナの警戒ランクを4つに分け、首相自らがその意味をシンプルに示しました。多くの国民が支持したのが、うなずける内容です。

その後もフェイスブックを使って、首相官邸から動画の配信を行うなどし、フェイスブックを通じて寄せられた国民の質問にわかりやすいシンプルな言葉で答えていました。

――危機に際してのメッセージは、わかりやすいかがポイントだと?

緊急時のメッセージとしてはそのとおりです。ドイツのメルケル首相の演説も有名になりましたよね。イギリスのボリス・ジョンソン首相もそうでした。コロナ危機当初の昨年3月23日夜、ロンドンの首相官邸からテレビ演説を行い、何が問題なのか、なぜその政策を行うのか、何を求めるか、短く端的に説明した。

それまで首相の評判は決して良くなかったですが、『あのボリスが』と国民はいい意味で驚き、コロナに危機感を抱いたようです。初期に成功した国は、専門家の意見を参考に、政治家が意思決定についてメッセージを出す、という科学的エビデンスに基づいたシンプルなコミュニケーションで成功した印象です。

情報や意見を交換しあうが基本

――そもそも緊急時のコミュニケーションとは、どうあるべきなのでしょうか。

リスクコミュニケーションの基本的な考え方は、情報や意見などを交換しあう、という点にあります。みんなが議論に参加して情報の交換をすること。つまり、双方向性が眼目です。

政府や専門家、事業者、そして国民。リスクに関わる人々の間で情報や意見を交換し、違う視点を持ち込む。必ずしも政府や専門家が正解とは限りません。政府・専門家側と国民との間でコミュニケーションを深めていくと、最終的には、最初の段階で行政が想定した結論とは違う内容になるかもしれません。

しかし、双方で合意を形成していくプロセスを作って、合意形成の過程を見せていくことが大切なんです。これが基本です。とはいえ、領域により専門家の意見の尊重の度合いなどは異なります。また、リスコミの中でも緊急時のクライシス・コミュニケーションでは、交換よりも、タイミングを捉えて意思決定を的確に伝達するほうが優先されます。

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