なぜ米カジノ大手はアジア進出に熱心なのか 過当競争に陥るアメリカのカジノ

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グローバル事業者のうち、株式を上場するLVS、MGM、WYNNの時価総額は、それぞれ5兆9000億円、2兆円、1兆3000億円(7月18日現在)であり、営業利益は3400億円、1300億円、1100億円(2013年実績)です。この3社の時価総額、営業利益の規模は、他の米国のカジノ事業者を圧倒しています。グローバル事業者の中でもCaesars Entertainmentは経営危機に陥り、現在はプライベートエクイティファンドの傘下となった経緯があり、この3社とは対照的な経営状況をたどりました。

この3社が突出している理由はシンプルです。3社ともマカオ、シンガポールに事業を持つことです。LVSはマカオ、シンガポールの両方に事業(子会社)を持っています。MGM、WYNNはマカオに事業(子会社)を持っています。

3社とも企業価値、営業利益の大半をマカオ、シンガポールに依存しています。米国事業の企業価値、利益の構成比はごく僅かです。例えば、LVSのグループEBITDAのうち、マカオ、シンガポールの構成比はそれぞれ60%、30%ほどです。つまり、LVSの利益のうち、アジア(マカオ、シンガポール)が90%以上を占め、米国を含むアジア以外は数%に過ぎないわけです。

ノンゲーミング施設で稼ぐ必要性

IR、カジノの経済分析は次回以降で詳細に紹介しますが、今回は、米国とアジアの売上構成の違いのみ簡単に説明します。

マカオ、シンガポールのIRの売上構成比をみると、カジノゲーミングが8~9割、ノンゲーミング(ホテル、飲食、エンターテインメント、MICEなど)は1~2割です。一方、米国のラスベガスストリップのIRではカジノゲーミングが4割ほど、ノンゲーミングが6割です。

差異の原因は、カジノゲーミングの収益力です。アジアでは政府がカジノ施設の総量をコントロールしますので、カジノの収益力が高く維持されています。ゆえに、カジノ以外のノンゲーミング施設は収益よりも集客に専念し(良いサービスを低価格で提供)、カジノゲーミングが集中的に収益を稼ぎます。一方、米国ではカジノゲーミングが過当競争であり、収益力が低いため、ノンゲーミング施設も収益を稼ぐことを求められるわけです。

米国のカジノ、IRのノンゲーミング部門の売上構成の高さの主な理由は、カジノの競争激化、収益力の低さの結果の裏返しです。ノンゲーミング事業に特別に優れた秘密があるわけではありません。実際、米国グローバル事業者のマカオ、シンガポール子会社の売上構成比はアジア発の事業者と同じです。

日本は世界の事業者の序列を塗り替える市場

本連載で説明してきたように、日本市場は莫大な金融資産を有し、国際競争から切り離されており、中央政府が施設量をコントロールします。事業者は永続的に大きな利益が保証されています。関東、関西それぞれ一施設ずつ構築した場合、2施設計の営業利益は保守的に見積もっても年間3000億円レベルと世界最大級が予想されます。

日本は世界の事業者の序列を塗り替える市場です。こうしたことを背景に、米国グローバル事業者のみならず、世界の事業者が日本における売り込みを積極化しているわけです。逆に言えば、日本資本の事業者(コンソーシアム)がしっかりと日本のIR、カジノを主導すれば、その時点で、その事業者は一気に世界トップクラスの仲間入りを果たすことになります。

小池 隆由 キャピタル&イノベーション代表取締役

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こいけ たかよし / Takayoshi Koike

1991年山一證券入社。山之内製薬などを経て、2005年にドイツ証券、2010年にゴールドマン・サックス証券に入社。証券アナリストとして、メディア、エンターテインメント、インターネット産業を担当。2012年に、ウォール・ストリート・ジャーナルが選ぶアナリストランキングにてメディア部門でアジア第1位。2013年9月、キャピタル&イノベーション株式会社を設立。カジノを含む統合リゾート(IR)整備に向け経済界への啓発に注力する。e-mail : koike@capital-innovation.biz

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