足湯新幹線を「オフィス化」、大胆発想の全舞台裏 「とれいゆ」使い10月運行、JRと山形県が企画

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第2の理由は、県内におけるワーケーションの拡大だ。YWSのメインターゲットは丸の内で働くビジネスマン。「スターバックスで仕事をするのもある意味でワーケーションといえるかもしれないが、通常のリモートワークで得られないものを見つけてほしい」(小林部長)。

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YWSが運行する10月1日は金曜日。山形県内に降り立った利用者に土日は観光やレジャーを楽しんでほしいという思いがある。

とれいゆつばさの定員は143人だが、YWSではコロナ対策として定員を100人程度に減らす。それでもこの100人が、YWSの乗車後に山形県内でワーケーションを楽しんで、ワーケーションの長所を情報発信してくれれば、県にとっては大きなPRとなる。

第3の狙いは、新たなビジネスの創出だ。今回のYWSでは、運行中に乗客向けのオンラインセミナーが開催される。自席だけではなく、足湯につかりながら、バーカウンターでグラスを傾けながらセミナーに参加できる。さらに山形県に到着後も特別セミナーも企画しているという。

県の非公式バーチャル・ユーチューバー「ジョージ・ヤマガタ」によるオンラインセミナーが毎週開催されており、サイトの会員登録者数は約400人。ネット上でつながっている人たちの何人かがYWSに参加して、リアルにつながることで、新たなビジネスが生まれるかもしれない。それ以上に、県内の産業と東京の発想を結びつけることで新たな価値を創造し、県の発展につなげたいという思いもある。

観光列車はオフィスとして使えるか

小林部長が一例として挙げたのは、日本酒とアートの組み合わせ。山形市内の酒屋と東京から移住した画家を地元の金融機関が結びつけ、ラベルデザインが美しいオリジナル酒が誕生した。「YWSを通じて山形県にイノベーションのきっかけがあることを伝えたい」(小林部長)。

「とれいゆつばさ」にはバーカウンターもある(撮影:尾形文繁)

JR東日本にとっても、観光列車のとれいゆつばさがどのように新幹線オフィスとして機能するかはぜひ確認したいところだろう。利用者が高く評価するのは大きなテーブルなのか、対面でのミーティングスペースなのか、それとも仕事の合間に楽しむバーカウンターや足湯なのか。今後新幹線オフィスを新たな収益源とするならば、それに見合うだけの付加価値を提供する必要がある。YWSで得たノウハウが今後の新幹線オフィスの企画や開発に生かされる。

やまがたワーケーション新幹線の詳細は7月中に発表される。どのような内容になるか、興味津々だ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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