なぜ、「働けない若者」が増えたのか 『無業社会 働くことができない若者たちの未来』を読む

拡大
縮小
東京新卒応援ハローワークの様子。(撮影:梅谷秀司)

いつのまにか浮き世はギスギスし、何かと言えば自己責任、である。お互い様とかお陰様という「生温い」言葉は流行らないらしい。「努力するものが報われる社会を」というスローガンもよく聞いたものだが、その意も「報われない者は努力が足りないのである(だから自己責任ね)」とすり替わりつつあるようだ。

そして「こんな時代に負け組になったりしたら大変だ」という恐れの気持ちは、「いやいや、あいつらと自分は違う。あいつらは努力が足りんのだ。自分は大丈夫」と、恵まれないものや躓いたものを蔑視することで、しばし慰められるのだ。「情けはひとのためならず」って本来どういう意味だったかしら。「甘やかすと相手のためになりません」でしたっけ?

こうした自己責任の文脈で医療、介護、年金、生活保護、労働政策等々が語られる。甘えないでください、頼らないでください。経済的にも不安な世の中である。不安だと人は余裕をなくす。人のことまで構っていられない。ですから皆さん自己責任でお願いします。というスパイラルだ。

同世代の中でも「自己責任論」

さて、働いていない若者の話だ。いい若い者が働いていないとは! 眉を顰めるのは大人ばかりではない。当の若年世代からも「私たちの世代が怠惰だと思われるのは彼らのせいだ。彼らが無業になったのは、私たちとは関係ない話だ」という言説が多く発せられているらしい。自己責任論か、そうでなければ「若いんだからなんとかなるでしょ」という無関心であろう。

だが本当にそうなのか。かれらが「ちょいと心を入れ替えさえすれば」片付く話なのか。そもそも、「われわれ」と「かれら」は、本当に「違う」のだろうか。

本書は若年無業者に対する様々な誤解と構造的問題の見落としを、数多くの統計や個別の事案を積み重ねて、解きほぐしていこうと試みている。

次ページ病気・けがで無業に
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT