二強で明暗、好調アサヒとキリンの誤算 アサヒは中間決算の業績見通しを上方修正

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増税直後、各社がシールを集めて応募すればビールサーバーなどが必ずもらえるキャンペーンを大々的に実施したのに対し、キリンは大型の販促をしなかった。7月16日に行ったビール事業の戦略説明会で、「消費増税後の環境の変化に、施策の面で柔軟に対応できなかった」と、キリンビールの磯崎功典社長は足元の苦戦の原因を振り返っている。

2つ目の誤算は販売戦略だ。消費増税のあった上期、キリンでは主力3ブランド「一番搾り」「淡麗グリーンラベル」「のどごし〈生〉」のリニューアルを実施。あえて新商品は出さずに、既存ブランドの強化を優先した。他社は増税前の新商品発売こそ控えたものの、5月以降は軒並み新商品を投入したため、これにシェアを奪われる形となった。結果、上半期の主力3ブランドの販売数量はいずれも前年同期比でマイナスとなり、思うような結果を出せていない。

行儀の良さを捨てる

キリンビールの磯崎社長。営業は”戦う集団”に変貌できるのか。(撮影:今井康一)

3つ目の誤算はアサヒの居酒屋大手チムニーへの出資だ。チムニーは「はなの舞」など約700店舗を全国に持ち、キリンビールも5.2%出資する。今年3月、アサヒが米投資ファンド・カーライルからチムニーの発行済み株式9.1%を取得した。この結果、キリンからアサヒへ取引を切り換える動きが進んだという。大口顧客の喪失で業務用の失速も余儀なくされてしまった。

いくつもの誤算で独り負けを喫したキリン。下半期の挽回策について、「キリンの『行儀良さ』から脱し、戦う集団となるべく営業の意識改革を行う」(磯崎社長)と熱い意気込みを見せている。まずは「一番搾り」の業務用強化を行う方針。採算重視の営業活動から方針転換し、取られた分を取り返す構えだ。行儀の良さを捨て、勝ちにこだわる集団になれるのか。キリンは正念場を迎えている。

田嶌 ななみ 東洋経済 記者

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たじま ななみ / Nanami Tajima

2013年、東洋経済入社。食品業界・電機業界の担当記者を経て、2017年10月より東洋経済オンライン編集部所属。

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