日本に「炭素税」の導入が求められる合理的な理由 炭素コストの明示化こそが最大の成長戦略となる

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アメリカでは連邦炭素税は未導入で、すぐに導入が見込まれる状況にはないが、過去の炭素税法案には共通点があり参考となる。2019年7月に提案された3つの炭素税法案についてChad Qian氏の分析を見てみよう。

3法案とも低い税率(CO2トン当たり15ドル、30ドル、40ドル)で導入、以降毎年引き上げる。削減が目標を下回る際に引き上げ幅を拡大するラチェット・メカニズムも2つの法案が採用。いずれも上流で課税し、炭素集約度の高い製品の海外からの輸入に炭素税額相当の関税を課す国境調整措置をいずれの法案も前提とする。

また、税収の使途は、3法案とも7~8割強を中低所得者の所得税の減税に充当。一部(20%程度)を「適応」を含むインフラ投資に充てる法案もある。

法案の1つ(SWAP act)は、「規制停止(regulatory break)」を採用している。これは、12年間はClean Air Actによる温室効果ガスの規制を禁止するもので、産業界の協力を得るためだ。

多排出産業には直接規制よりも炭素税がいいとの声があり、実際、アメリカ石油協会(API)は今年3月、「規制の重複を避ける」ことを前提に炭素税等のカーボンプライシング支持を表明した。今後高い排出削減が求められる中、炭素税と共に規制措置も必要と考えられ、規制排除コミットには慎重であるべきだろう。

自律的内部化のみで解決可能か

値段が高くても地球環境によい商品を購入する、排出削減に熱心な企業の債券や株式を購入するといった国民の意識は高まっている。

しかし、企業の気候変動関連情報の開示が不十分で、それを活かしきれていない。こうした中で、国際的に開示強化の動きがあり、国内でもコーポレートガバナンス・コード改定に取り組んでいることは歓迎される。脱炭素実現には、こうした国民の意識による対応(自律的内部化)と、国家・政府による炭素税・規制等の対応(制度的内部化)の双方が必要だろう。

「自律的内部化」のみで脱炭素を達成することは可能か。現在は、ESG(環境、社会、ガバナンス)投資のリターンは非ESG投資に劣らないという前提に立つ。しかし、Eの目標が高まれば、ESG投資のリターンが劣後する不幸な現実が生ずる。低リターンを甘受する投資家もいるが、多くの投資家は地球環境のために「自分だけ」がどこまで損失(機会費用)を我慢するか悩み始める。こうした不幸な隙間(=負の外部性)を埋めるには、やはり炭素税・規制等の「制度的内部化」が必要であろう。両者は相乗効果を持つ。

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