コーポレート・ガバナンス 経営者の交代と報酬はどうあるべきか 久保克行著 ~業績と経営者交代・報酬の関係を統計的に分析

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コーポレート・ガバナンス 経営者の交代と報酬はどうあるべきか 久保克行著 ~業績と経営者交代・報酬の関係を統計的に分析

評者 河野龍太郎 BNPパリバ証券チーフエコノミスト

 経済成長の源泉は、人々の欲する新たな財・サービスを供給すべく、革新的な企業が高い収益の投資プロジェクトに挑むことにある。所有と経営の分離による有限責任制度は、リスクマネーを新たな成長分野に振り向ける有用な仕組みである。リスクマネーの管理者たる経営者が適切にリスクテイクしなければ、株式会社制度のメリットを十分に生かせない。

今回の世界金融危機では、欧米の投資銀行の経営陣の報酬体系が大きく影響していたと言われる。経営陣に、過度なリスクテイクを促すメカニズムが、報酬体系に内包されていたのである。一方、日本ではリスクマネーの絶対量の不足が問題にされることが多いが、本当にそれだけか。リスクマネーの管理そのものが適切に行われていないことが問題なのではないか。

本書は、日本の上場企業において、適切な経営者が選任されているか、経営者に適切なインセンティブが与えられているか、という視点からコーポレート・ガバナンスを論じたものである。これまでもケーススタディを分析したものはあった。しかし、本書が貴重なのは、上場企業のデータセットを利用し、日本における業績と経営者交代の関係、業績と経営者報酬の関係を、統計的に分析している点である。記述もわかりやすい。

まず、日本の大企業では、業績と社長交代の関係が、非常に弱いことが統計的に示される。不適格な経営者を置き換えられないことは問題だが、能力の高い経営者を退任させることも大きな問題である。また、日本の経営者の報酬は、水準自体は上昇してはいるが、企業業績との連動性が相当に小さく、連動度合いが米国の100分の1であることが示される。金銭に貪欲でないことは美徳と思われるかもしれないが、業績改善のインセンティブが高くないということは、経営資源を別のことに使うインセンティブが高いということかもしれない。

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