米国は日米同盟の成り立ちを認識せよ ケネス・パイル教授に聞く日米関係の今後

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――集団的自衛権の問題には底流にいろいろな問題がある。

大卒者のセミナーで広島に原爆を落とした米国の決定について講義したことがある。突然、日本人の親友のひとりが両親が広島にいたという話を私にした。彼は今まで私にそんな話をしたことがなかったから、本当にびっくりした。米国と日本との間には、われわれを第2次世界大戦に立ち戻って考えさせられる深い問題がある。

そうした問題は戦後の日米同盟の当初から存在したが、あまり議論もされず、未解決の問題も多いのだ。われわれは広島を一方的に見ているが、多くの日本人は違った見方をしている。それについても米国では多く語られていない。広島の問題は表面下にあるほんのひとつにすぎないが、日米関係の中には多くのファクターが存在している。複雑な問題だ。

日本の保守派の人たちが抱いている気分について述べたが、日本のリベラルの人たちも同じような気分を抱いている。冷戦という言葉を最初に使ったジョージ・ケナンは、日米同盟を“不自然な親密さ”と呼んだ。文化的にも歴史的にもまったく違う2つの国民が、どうして同盟を結んだのかが不思議だとも語っていた。

米国は日本にのみ唯一、無条件降伏を求めた

――日米同盟は変わった同盟、ということか?

そうだと思う。それはフランクリン・ルーズベルト元大統領が日本に無条件降伏を求めたことに由来する。戦争をそういう形で終わらせたのは、米戦争史の中でこれが唯一だ。米国は多くの戦争を戦ったが、無条件降伏を主張したことはほかにはない。そのことが戦後の日米関係の土台となって今日に至っている。

――日本と韓国の間に存在する歴史問題の対立を解決するのに、米国は何か手助けすべきだと思うか?

それについては、いろいろ考えた。仲介の労をとろうとするなら、われわれ自分たち自身がやったことについて再考すべきだ。たとえば、先程も述べた広島への原爆投下だ。これまで国として再考するのに気が進まなかった。私は米大統領が広島を訪れたらいいと思う。日本の60もの都市を爆撃したことについてもほとんど話していない。戦争の最終年には、あえて民間人をターゲットにした爆撃も多かった。

――それらの問題は今でも消えていないと思うか。

そうだ。日米同盟のそもそもの成り立ちについて、米国人の自己認識の薄弱さに思いを致さなければならない。

ピーター・エニス 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Peter Ennis

1987年から東洋経済の特約記者として、おもに日米関係、安全保障に関する記事を執筆。現在、ニューズレター「Dispatch Japan」を発行している

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