味の素が流した、「とんでもない」性差別CM 「食事はお母さんが作る」は当たり前ではない

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男性側からこのメッセージを見ると、「家事はいいから、24時間外で闘え」と言っているように聞こえます。事実、夕食時には帰宅していません。

バブル期に「24時間闘えますか?」と連呼した「リゲイン」は、最近のCMで「24時間闘うのはしんどい」と認めた上で、「3、4時間闘えますか?」とセリフを変えています。

過労死を招きかねないようなメッセージに対する批判と、時代の変化を受け止めたのでしょう。それに対して、この味の素のCMはバブルの反省どころか、40数年前の高度成長期に先祖返りです。

「ひとりボイコット」をやります

同時に、はっきりと「男はうちの商品なんて買わなくていい」という声が聞こえてくるように思います。ええ、もちろん、こんな会社の商品、私は買いたくありません。これから夕食の買い物をするときには「ひとりボイコット」をやろうと思います。

厚生労働大臣によって「子育てサポート企業」に認定されると、「次世代認定マーク」(愛称:くるみん)が使えるようになる。出所:厚生労働省ホームページ

次世代育成支援対策推進法に定められた、「くるみんマーク」というものがあります。仕事と家庭の両立に関する就業環境の基準を満たせば、厚労省がその事業所にその証拠として使用を認めるものです。男性の育休取得者がいることも条件になっていて、東京大学も取得しています。

私はいつも夕食の買い物のときにそれを意識していて、冷凍食品を含め、くるみんマークのない会社のものは買わないようにしています。たとえば「ニチレイ」は、パッケージにもマークをつけているものがあり、極力そういうものを選びます。

おっと、味の素もくるみんマークを取得していました。男性の育休取得者が2010年度に11人とホームページで誇っておいて、このCMはないと思うのですが……。

皆さんはどうでしょう? このCMで、味の素のイメージがよくなりましたか?

付記:前回の渋谷区教育長の問題発言に対する反響は、私の想像を遙かに上回るものでした。これまでの連載の中で、アクセスや「いいね!」が断トツで多く、いかに多くのみなさんが、日本のPTAのあり方や教育長の発言に疑問を感じているかを実感することができました。
渋谷区教育委員会は、前回の連載以降、一切回答をしてこなくなりました。おそらく黙っていれば、そのうち騒ぎも収まるので、それで幕引きにしたいと思っているのでしょう。男性の側が、一部の女性が持っている古い考え方を性差別として批判することは、逆よりもはるかに強いメッセージになりうると考え、引き受けねばと考えました。引き続きご支援をお願いします。 
瀬地山 角 東京大学教授

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せちやま かく

1963年生まれ、奈良県出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。北海道大学文学部助手などを経て、2008年より現職。専門はジェンダー論、主な著書に『お笑いジェンダー論』『東アジアの家父長制』(いずれも勁草書房)など。

「イクメン」という言葉などない頃から、職場の保育所に子ども2人を送り迎えし、夕食の支度も担当。専門は男女の社会的性差や差別を扱うジェンダー論という分野で、研究と実践の両立を標榜している。アメリカでは父娘家庭も経験した。

大学で開く講義は履修者が400人を超える人気講義。大学だけでなく、北海道から沖縄まで「子道具」を連れて講演をする「口から出稼ぎ」も仕事の一部。爆笑の起きる講演で人気がある。 
 

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