豊田通商、「近大マグロ」をビジネスに 近畿大学と協力、クロマグロの卵から稚魚まで育成

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豊田通商が設立する種苗センターの完成予想図

稚魚やヨコワの増産を図る背景には、濫獲によるクロマグロの減少と、漁獲規制の強化がある。その影響は成魚の漁だけではなく、養殖にも及んでいる。

従来のマグロの養殖は、捕獲した天然ヨコワを海面生簀で2~3年かけて育てる。しかし、天然ヨコワも減少しており、養殖の需要に十分なだけの漁獲量を確保できないことも増えているのだ。そのうえ、来年には規制強化で、未成魚の漁獲枠は半減となる。今後足りなくなるヨコワの需要を満たすには、稚魚とヨコワの増産が必須。稚魚の養殖を事業化しているのは近大、ヨコワ養殖に関しては近大と豊田通商のみ。両者の視点でいえば、大いなるビジネスチャンスといえる。

計算通りにいかない養殖

もちろん、自然を相手にするクロマグロ養殖は、計算通りにはいかない。

卵から稚魚まで育てる人工種苗の工程でも、共食いで食われたり、食べた側が飲み込み切れずに死ぬなど、近大が始めた当初は、生残率がわずか0.1%しかなかった。通気量の制御や小さい時期から使える配合飼料の開発などで、生残率は改善したものの、まだ3%でしかない。稚魚段階での輸送がない近大の施設でも、幼魚からヨコワまでの生残率はまだ1%。台風などで被害があれば、さらに下がる。50%に達するマダイなどと比べると格段に難しい。

4年間行ってきた豊田通商の中間育成事業も、利益は出たり出なかったり。総合商社はどこも投資ルールを定めており、豊田通商も3年で黒字、5年で投資資金の回収、というルールがあるが、クロマグロの養殖事業は、このルールでは継続できない。それでも加留部淳社長は「社会的な意義が高い。長期的な視点で、5年かけても10年かけても、絶対に成功させる」と力を込める。

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