デフレの真の要因は人口の減少、移民政策へ本格議論を

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 人口減に危機感が高まった00年以降、政界・経済界では移民に関する議論が活発化していた。03年に民主党有志6人が「移民1000万人構想」を発表、自民党でも08年に外国人材交流推進議員連盟が同じく「移民1000万人受け入れ」を表明、09年1月には内閣府に定住外国人施策推進室ができた。経済界でも08年に日本経団連が「日本型移民政策の検討」をうたっている。

しかし、昨年の民主党政権誕生以降、移民論議はピタッと消えた。リーマンショック後の雇用環境悪化で国内の失業対策が急務であることと、移民政策に批判的な労働組合への配慮からとみられる。

移民政策は成長の源泉と見る経済的メリットと、治安悪化懸念など社会的軋轢(あつれき)の両面から議論すべきだ。また、米国やフランスなど移民によって人口減緩和に成功している例はあるが、その一方で、教育や年金など社会保障の再設計で多額な社会的コストを要する。とはいえ、日本の労働人口に占める外国人の割合は約1%と、他の先進国に比べて極めて低い。政府は移民政策を長期的国家戦略としてとらえたうえで、少子化対策、観光客誘致と合わせた抜本的な人口政策の転換を図るべきだ。

デフレとは国の魅力低下と言い換えることができるだろう。国内でモノを買う人が減り内需が落ち込むことによって、国内に投資する人が出てこない状況だ。中国ですら15年以降生産年齢人口が減少に転じる。移民の供給元と考えられる地域が早晩移民の受け入れ先に転じる可能性があり、そうなれば移民の獲得合戦となる。魅力が低下し、かつ閉鎖的な国に移民が来るだろうか。

現状、国内の雇用環境は厳しいものの、数年も経てば日本は深刻な労働力不足に直面する。人口減はデフレだけでなく国内経済にさまざまな歪みをもたらす可能性がある。日本の移民政策に対しては海外の投資家などの関心が高く、マーケットには日本が移民政策に積極姿勢を見せるだけで日経平均が1000~2000円上昇するとの見方もある。

内向き志向の政策がデフレを長引かせ、国の魅力低下を引き起こしていることを肝に銘じるべきだ。

(シニアライター:野津 滋 =週刊東洋経済2010年5月22日号)

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