偽物ハラルが蔓延する「観光立国」の瀬戸際 ムスリム誘客の本気度が試されている

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こと宗教の問題となると、一企業の対応だけでは済まなくなる可能性も大きい。だが、こうした危険をはらんだ状態でも、日本の諸官庁はハラル認証に関して腰が引けている。

いわく「ハラル認証は製造工程まで踏み込むと聞いている。消費者庁がやっている施策は、あくまで表示規格のみ。業務上の取り扱いの範疇ではない」(消費者庁)、「ハラル食肉の振興を図っているが、あくまで国産食肉の消費拡大策の一環。(国内のハラル認証に関して)指導することは困難」(農林水産省)、「体に異変が生じるなどの問題がないので動けない」(厚生労働省)といったように言説を濁す。

「問題があることは把握しているが、宗教がからんでいることもあり、すぐにどうこうしようという動きにはなっていない。上には提言しているのだが…」と、前述の担当官とは別の農水省の若手官僚はこう悔しさをにじませる。ただ、その若手官僚も「宗教という壁がある中で、果たして的確なガイドラインが出せるのか」と続ける。

何をもってフレンドリーとするか

そんな中、政府のまとめた行動プログラムで、観光庁がハラルに対する取り組みを一歩進め、「ムスリムおもてなしプロジェクトの実施」をぶち上げた。「知れば知るほど奥が深い」と、観光庁・外客受入担当参事官付の丸尾重雄専門官は嘆息する。

たとえば、「ムスリム・フレンドリー」という単語ひとつ取り上げてみても、悩みは深い。多くの場面で「フレンドリー」は、厳格なムスリム対応はできないので、近づけるよう努力はしました、という意味になっている。日本ムスリム協会の徳増公明会長は「“フレンドリー”というから(『信頼できる』という意味で)通常より厳格な基準を指すのかと思ったら違った」と驚く。

安心させる言葉で油断させ、その実態は厳格な基準を守れない提供者に優しい言葉となっているのだ。「だから、観光庁のアクションプログラムの中で、“フレンドリー”という言葉を使うことはやめました」と丸尾専門官は説明する。

ほかにも、豚が入っていないことを知らせるため、豚のイラストを描こうとすると、そのイラストでさえ不快に感じる人がいる、というくらい繊細な問題ということがわかってきた。

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