スルガ銀行、「かぼちゃ」の次は「アパマン」の試練 シェアハウス融資の“徳政令"を経て次なる難題

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経営再建のさなかにあるスルガ銀は、2020年度は214億円の黒字だった。だがこれは、過去に積み上げた利回りの高い融資の恩恵を受けているにすぎない。ピーク時に比べて新規融資の金額は半分以下に減っており、リスクの低い顧客への融資拡大から利回りも低下している。既存の融資が返済されると貸出残高は減少し、高利回りの恩恵も薄くなっていく。そうした中、アパマンローンまで減免となれば、経営への影響は計り知れない。

スルガ銀としては、シェアハウス向け融資を帳消しにした「徳政令」をアパマンローンにまで適用することは避けたい。そこで主張するのが、「アパマンローンは『定型的な不法行為』にあたらず、債務の帳消しは認められない」という論理だ。

具体的にはこうなる。投資用不動産の中でもシェアハウスはマーケットが未成熟ゆえ、スルガ銀はリスクを十分に分析せず、不動産業者が持ち込んだ非現実的な事業計画も見過ごしたまま融資を実行し、オーナーに高値づかみをさせた。したがって、シェアハウス向け融資についてはスルガ銀は一律に責任を認めている。

一方で、アパマンローンは融資対象の物件が千差万別で案件ごとに個別事情を精査する必要があることから、一律の対応はできないとする。また、河合弁護士によると「投資用アパートやマンションはマーケットが形成されているため、レントロールが改ざんされていたり、物件価格が相場より高かったとしても、それを見抜けなかったオーナーの責任」とスルガ銀は主張しているという。

金融業界全体に波及か

今後もスルガが強気の姿勢でいられるかは不透明だ。シェアハウス向け融資をめぐる交渉でも、当初スルガ銀は元本カットに否定的だった。だが、スルガ銀店舗前でのオーナーらによる激しいデモや、株主総会での経営陣の糾弾など法廷外での抗争を受け、白旗を揚げた苦い記憶がある。

万が一、スルガ銀がアパマンローンに対しても元本カットなどの措置を講じれば、騒動はスルガ銀だけの問題ではなくなる。シェアハウス向け融資はスルガ銀が中心に行っていたが、アパマンローンはほとんどの金融機関が手がけている。スルガ銀以外の金融機関でも不正の疑われる案件が発覚すれば、スルガ銀の対応が「前例」となり、元本カットを求めるオーナーが出現する可能性があるからだ。

弁護団は6月15日を初回の交渉日に設定している。スルガ銀が交渉のテーブルに着くかは不透明だが、今後の行方次第では金融業界全体を揺るがす問題に発展しかねない。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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