「外国人との食事ダメ」騒動で語られていない問題 「外国人=脅威」というラベル付けの真の危険性

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「今回の呼びかけは明らかに農家で働く外国人を対象としており、まるで日本人は農業に関与していないかのようだ」と、岐阜大学の文化人類学の教授、ジョン・ラッセル氏は話す。

「外国人農業労働者は、皮肉にも日本の増大する農業労働危機を緩和するために連れてこられた。彼らの多くは欧米諸国以外から来ており、そのために日本における『外国人ヒエラルキー』の下部に位置付けられていることも明らかだ」。

「以前にも新型コロナと外国人の関連性は指摘されていた」とラッセル氏は付け加える。

「去年の夏に(東京などで)開かれたブラック・ライブズ・マター(BLM)のデモでも、参加者がマスクをつけ、ソースシャルディスタンスを維持していたにもかかわらず、ウイルスが拡散する可能性があるという大きな懸念を持たれていた。1980年代と1990年代に『外国人の病気』としての認識されていたエイズに対しても同じことが言える」

適当な謝罪が浮き彫りにした根本問題

日本における外国人嫌いの傾向を悪化させることが保健所の目的だったかどうかは別として、1つだけ確実なことがある。この国では保健関係者でさえ、日本における脆弱なマイノリティ、つまり、日本では目立ってしまう非日本人を日本人への脅威とラベル付けすることの影響を考える良心に開欠けている、ということだ。 

これはとても憂うべきことだ。

「市の文書で最も憂うべきことは、『多くの新型コロナ患者が外国人から感染した可能性が高い』という主張だ。その証拠はどこにあるというのか」と、30年以上日本に住んでいるラッセル氏は疑問を呈する。

こうしたマインドセットによって実害も発生している。この種の「外人」は脅威であるとするラベルが付けられた誤情報は山火事のごとく広がるが、これらにつきものの撤回や謝罪が、人種差別主義者のメッセージのような注目を集めることはめったにない。それを踏まえると、そもそもこうした人種差別的なメッセージが一般に公開されてしまう思考回路や文化においては、より多くの差別行為が行われていることは確実、と言わざるをえない。

今回のように人々に何かの脅威を伝えたい時は、こんな基本的な考え方が役に立つだろう。「『人種』や『国籍』、つまり問題とは直接関係ないある特定のグループをある問題の原因とすることは、100%誤解を招くだけでなく、人種差別である可能性がある」。

バイエ・マクニール 作家

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Baye McNeil

2004年来日。作家として日本での生活に関して2作品上梓したほか、ジャパン・タイムズ紙のコラムニストとして、日本に住むアフリカ系の人々の生活について執筆。また、日本における人種や多様化問題についての講演やワークショップも行っている。ジャズと映画、そしてラーメンをこよなく愛する。現在、第1作を翻訳中。

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