「フォートナイトとの闘い」でアップル譲歩の理由 圧倒的強者に立ち向かう「ナラティブ」の力

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これにはエピックも黙ってはいられない。2020年8月、エピックはアップルとグーグルをカリフォルニアの裁判所に訴えるという行動に出る。「販売価格の30%を利用料として支払うというルールが一方的であり、独占禁止法を犯している」というわけだ。

「1984」のパロディ動画をツイッターで公開

なんともアメリカらしいと言えばそれまでだが、この巨大企業同士の「ケンカ」は、意外な展開を見せる。提訴の直後、フォートナイトの公式ツイッターにある動画が公開されたのだ。 

動画視聴を開始した瞬間、それが完全なる「1984」のパロディだということに人々は気づく。あまりにも有名な、「ビッグ・ブラザー」の場面。違いは、実写ではなくCGで描かれていること、灰色の男たちは仮想空間におけるフォートナイトのアバターたちであること、そして極め付きは、眼鏡をかけた独裁者ビッグ・ブラザーが「左上が欠けたリンゴ」の顔をしていることだ!

ラストシーンで、駆け込んできたアバターの女性勇者が放った武器で、巨大スクリーンは粉々に砕け散り、以下のメッセージが流れてくる。

「Epic GamesはApp Storeの独占に異議を唱えました。報復として、Appleは10億ものデバイスでFortniteをブロックしています。2020年を『1984』にしないための闘いに参加してください」

なんと皮肉たっぷりなやり方だろうか。この動画は、1984年の物語なしには成立しない。そして見事に、今回の「ビジネス騒動(=企業当事者間の争い)」を、「物語的な共創構造(=より多くの人々が関心を持ち関与する構造)」に変えてしまった。

「1984年の物語はまだ続いていた。かつての革新者アップルが、2020年の今、ビッグ・ブラザーとなっていた。新たな革新者こそがフォートナイト(エピック)である」。 これが、エピックが社会で獲得したいパーセプション(認識)だ。

いかがだろうか。アップルとフォートナイトの訴訟争いの正体は、「独裁社会からの解放」という社会普遍的なナラティブなのである。

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