親がわが子を受験戦争から撤退させられない理由 シンガポール政府の目玉改革への親たちの本音

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政府による個別の施策に賛同する声も上がる。ちょうど低学年の学期末試験が廃止された2020年に子どもが小学1年生になったシンガポール人女性は「ストレスが減っていいのでは。試験のための勉強をしなくていい」と評価する。

それでも塾に行く理由

しかし、このように「成績や試験がすべてではない」「ストレスは減ったほうがいい」と語る親たちの大半は、そう語りながらも、他方では子どもたちの成績をキープする方策を打っている。

私が調査したうち、小学校低学年の母親20人中16人が「中国語は家庭で話さないので習わせるのはマスト」などと、子どもが就学前または小学1年生から中国語の塾に行かせていた。さらに、英語や算数もそれぞれ7~8家庭が低学年の時点ですでに塾を利用していた。

なぜ「ゆとり教育」には賛成なのに、競争をやめられないのか。それは端的に言えば、政府の理念には賛成でも、実際の制度が変わるかどうかの不安があるからだ。そして、ほかの親が競争を止めない予想もつくため、自分だけ競争を降りてしまうことがコワイのだ。

ショッピングセンターにも教育関係の宣伝が多い(写真:筆者撮影)

たとえば、2020年から低学年で試験を減らす制度変更について、香港出身で夫がシンガポール人の専業主婦Cindyさん(仮名)は次のように語る。

「小学3年生までの試験がなくなったけど、もし小学4年生からのカリキュラムには変更がなくて、突然大きなジャンプをしないといけなくなったら? そこで自分の子どもが現実に直面して、ものすごく勉強しないといけないプレッシャーを受けるくらいなら、早めに勉強を始めて基盤を築いていたほうがいいと思う」

Cindyさんは「学校は低学年の試験や宿題を減らして、リラックスしすぎている。学校の宿題は30分くらいで終わってしまう」と、小学2年生の息子を算数(そろばん)、中国語、英語の塾に通わせる。むしろ政府による、低学年での期末試験廃止等の「ゆとり教育」の政策が学校外教育の利用を一層駆り立てている側面もあるといえそうだ。

次ページ慣れるための十分な時間と余裕を与えるとしている
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