リニア工事費「1.5兆円増」、JR東海は耐えられるか 増額幅は北陸新幹線の敦賀延伸費用に匹敵

拡大
縮小

債務残高が6兆円に増えることに問題はないのか。この点について、金子慎社長は、「資料はあくまでイメージとして示したもので、長期債務残高が6兆円に達すると決めたわけではない」としたうえで、「5.4兆円の長期債務を背負った1991年度と比べても当社の経営体力は格段に強くなっているので、6兆円は十分に可能」と話す。

同社の経営体力の変化を示すデータがある。1991年度の営業利益(単体)は2876億円だった。コロナ前の2018年度は同6677億円。この間に営業利益は2倍以上に増えた。確かに稼ぐ力は高まっている。

問題は今後の収支見通しだ。新型コロナウイルスの感染拡大で出張や観光が控えられているため、JR東海の旅客の落ち込み度合いは他社以上に大きい。今期以降、どのように回復すると見込んでいるのか。JR東海は、2021年度については2018年度比で66%まで回復し、その後も段階的に回復、2024年度から2028年度までの間に100%に戻るとしている。「コロナ後の旅客需要はコロナ前に戻ることはない」とする多くの鉄道会社とは対照的だ。

コロナ後に需要は戻るのか

この点について、金子社長は、「他社は通勤利用が中心であり、コロナ後も人口減少やテレワークが進展し、当社よりも厳しいのではないか」とみる。東海道新幹線は、のぞみ12本ダイヤやEX予約の拡充などの施策を講じてきた。コロナ禍で十分な効果が出ていないが、コロナが収束すれば、こうした施策が奏功して、利便性が高まることで旅客需要が元に戻るという見立てだ。

もっとも、このシナリオどおりに進むかどうかは未知数だ。あまり話題にならないが、JR東海は2010年当時から「想定外の経費増、収入減を伴うリスクに対しては、工事のペースを調整し、債務縮減により経営体力回復のための時間調整を行う」と、予防線を張っていた。収入減の場合は工事完遂よりも財務体質の回復を優先するということだ。

もし、コロナ後の収支が順調に回復せず、長期債務を順調に減らせないようだと、名古屋開業のみならず、その後に始まる大阪延伸工事の行方にも大きな影響が生じることになる。

大坂 直樹 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT