スペインが中欧進出、欧州鉄道「戦国時代」の様相 コロナ禍で苦境のチェコ企業をパートナーに

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そんな中、チェコの民間企業レオ・エクスプレスがパートナーを探しているとの情報はレンフェにとって、まさに渡りに船という状況であったに違いない。中欧地域という新たな市場への参入はもちろん、同社はドイツ国内の運行認可を取得しているため、ドイツ市場への参入も可能となるのだ。

レンフェの高速列車AVE。同社はフランス国内での高速列車事業にも参入する(筆者撮影)

欧州の鉄道は、もはや自国内だけに頼って営業を続ける時代ではなくなってきた。とくに国の規模が大きく、収益が期待できるドイツやフランス、イタリア、スペインといった国々は、他国の鉄道会社に狙われやすい地域といえる。同時に、これらの国のナショナルキャリア(旧国鉄系鉄道会社)は、他国への進出を積極的に進めている。

レンフェは、レオ・エクスプレスの株式取得計画が発表される以前から、バルト三国の鉄道を近代化し、他国との接続を強化する「レール・バルティカ・プロジェクト」を陰で支えるパートナーとして名を連ねている。また、スペイン国内へのフランス国鉄参入を許す一方でレンフェもフランス国内での高速列車事業に参入し、対抗することになった。

欧州鉄道の勢力図を変えるか

今回、経営状態の悪化で危機的な状況に陥ったレオ・エクスプレスと、他国進出へ向けてパートナー企業を探していたレンフェの思惑は一致しており、両社はこのパートナーシップが成功するものと確信している。今後、両社が正式に合意した後はどのような計画が進められていくだろうか。

まず、レオ・エクスプレスが以前から企てていた周辺諸国への積極的な進出は、レンフェの資金投入により早期に実現できるだろう。

レオ・エクスプレスがテスト中の中国中車製電車。最初の3編成のほか、追加30編成のオプション契約も保有している(筆者撮影)

現在、レオ・エクスプレスが保有している5本の電車はすべて直流電化区間の専用車であるため、交流電化されている地域や国へ運行することはできない。だが、営業運転投入に向けて現在テストが進められているCRRC製電車は交直両用で、ブルノやカルロヴィ・ヴァリ、ブラチスラヴァといった交流電化区間への乗り入れが可能になるほか、ドイツやオーストリアの電圧にも改造で対応させることが可能といわれている。

同社はCRRCと追加30編成のオプション契約を保有しており、最初の3編成が問題なく営業を開始できれば、オプションを行使する可能性も出てくるだろう。

レンフェとのパートナーシップにより、近い将来には黒い車体のレオ・エクスプレスが欧州各地で見られるようになり、鉄道の勢力図が大きく変わる日が来るかもしれない。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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