アップルOB家族がマレーシアで得たもの 英語が目的なら、欧米に行ったほうがベター

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内村さんの子どもたちがマレーシアに来て得たものとは何か。「色々な国の色々な人がいる環境の中で、なんとか生きていく術です。ここでは自分が少数派になるわけですから、その中で主張し、人間関係を作っていかなくてはなりません。日本のように制度が整っていないため、困ることも多い。とくに長女は大学生活の前半2年をマレーシアの私立大学で過ごし、生徒会のマネージャーとして中東系の学生をまとめる上で苦労しました。勉強だけでなく、非常に良い経験をしたと思います」

逆に失ったものは?と聞くと、「日本で普通に生きていくのは大変かもしれません。日本語教育には力を入れましたが、それでも日本語を書く力は弱い。それから、あまり粘り強くありません」と内村さん。真由美さんは「日本の歴史や地理が弱いのは寂しいですね」と語るが、それでも夫婦は「来てよかった」と声を揃える。

移住で満足するのは3〜4割

いま教育移住が脚光を浴びていることを、どう見るか。「まず、英語を目的に来るのはあまりお勧めしません。こちらの英語は訛っていますし、英語が目的なら、欧米に行ったほうが良いでしょう。もちろん、欧米の大学で読み書きする力は付きました。小学校のときにはたくさんの詩を読ませるので驚いたほどです。また、日本人が偏見なくイスラムを見られる国でもあります。そういったマレーシアの良さを理解する人にはいい経験になると思います」と内村さん。一方で、「リタイア移住もそうでしたが、実際に来る人で、マレーシアに満足するのは3〜4割でしょうか。結局不満を持って帰ってしまう人も多いのが実情です」と指摘する。

では、どういう人がマレーシアに「合う」のか。「マレーシアの『緩さ』に合うかどうかですよね。いろいろ細かいことを気にしすぎる人には向きません。移住でも、事前にキッチリ調べてくる人にはお勧めしませんね。学校でも先生が辞めてしまったり、ウエブの情報が間違っていたりは日常茶飯事ですし、渋滞で遅刻も当たり前。ですから、それをまあいっか、と思える人でないと難しい」

最後に移住者へのアドバイスをもらった。 「日本人同士、どうしても一緒に行動してしまうのですが、ほどよい距離感を持つことですね。それからローカルの友達を持つことも大事です」。

この十数年、じつは親も楽しかった、と振り返る。「親子ともに、新しい環境に飛び込める力がついたことは大きいと思います」 。

野本 響子 ジャーナリスト

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のもと きょうこ / Kyoko Nomoto

東京都立青山高校、早稲田大学法学部卒業。安田火災海上保険(現損保ジャパン)を経てアスキー入社。『MAC POWER』(アスキー)、『ASAHIパソコン』『アサヒカメラ』(朝日新聞出版)の編集者を経て現在フリー。『僕がアップルで学んだこと』『企業が『帝国化』する』(ともに松井博著/アスキー新書)編集。著書に『いいね!フェイスブック』(朝日新聞出版)、『マレーシアの学校の○と× アジア子連れ教育移住の第一歩』(Kindle)ほか。1990年代半ば、仲良くなったマレーシア人家族との出会いをきっかけに、マレーシアの子育てに興味を持ち、現在クアラルンプール郊外に長期滞在中。趣味はオーケストラでの楽器演奏。

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