目先の利益にとらわれず、原理を追求してきた 東芝機械の八木正幸取締役に聞く

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三宅:社内の逆風に対して、どう説得したのですか?

八木:自分ひとりでは何もできないので、私はいかに人の力を利用するかをいつも考えています。当社のベテラン社員は、技術、技能を持っているし、お客様の会社にもベテランがいます。将来を考えたとき、今、苦労してでもチャレンジしなかったら、チャレンジするタイミングを逃してしまう。つまり、ベテランがいるうちにやれば、たとえ失敗しても助けてくれます。

三宅:確かにそうですね。

八木:ベテランが一緒になってやると、技術と技能が一体化します。それに、たとえ失敗しても人材が育ちます。人間は成功体験より失敗体験で成長するのですよ。そして失敗をみんなでフォローアップする。そういう経験があれば、次もまたチャレンジできます。そういう意味で、絶対にやるべきだと言いました。

三宅:もののわかる上司ならいいですが、普通はなかなか言えないことだと思います。

八木:このときも上司には飲みながら話しました(笑)。

課題解決ではなく、提案型に

三宅:八木さんは上司から、反対してもやるヤツだと思われていたのでしょうね(笑)。

八木:そうですね(笑)。そういえば国内営業のとき、競合他社の牙城で大口注文を取ったのがまさにそのパターンでした。上司からは、どうせダメだから行くな、行くなら自腹で行け、と言われていた会社です。相手のキーマンに電話して、ネットワークシステムを提案し、先方がメーカーを決める会議の日に会いに行きました。そして先方の部長と部屋で30分ほど話して、部長が「わかった、これで行こう。でも予算はこれでいきたい」と、私の提案より低い予算を示されました。それで1時間の時間をもらい、うちの営業部長と技術部長の了解を取り付けました。同じように上司に反対されながら、競合の関連会社の案件を取ったこともあります。

三宅:何が成功のカギだったのでしょう?

八木:いかにお客様のためになる提案をするかが、重要だと思っています。空間軸と時間軸でポジショニングして、市場の動き、お客様の競合、われわれの競合、お客様、われわれがどの位置にいて、どう動くかを考えます。多くの産業機械メーカーは課題解決型ですが、提案型を心掛けていました。

三宅:逆に、お客様に、機械の導入をやめたほうがいい、と言うこともあるのですか?

八木:ありますね。海外の会社から20億円ぐらいのシステムの話があったとき、お客様の事情や実力を考慮すると、お客様にとってのリスクが大きすぎると、やめることを勧めました。ただ単に「やめたほうがいい」というのではなく、当社の既存の機械をモディファイして提供するから、それで当面やってみて、うまく行けば次のステップとして新システムを考えましょう、という代替案を提案しました。結局は、最初のステップでもうまく行かず、そのシステムは発注されないことになったのです。東芝機械の短期収益でいくと明らかにマイナスですが、お客様にとってはそれが正解だったわけです。

また、海外のお客様からはいろいろな引き合いが来ます。特殊機のマシンはお客様と一緒に開発したものなので、たとえ機密保持契約が切れていても、他社からの依頼は断ります。

三宅:つまりそれは、日本の会社に入っているものと同じシステムを作ってほしいという、他社からの依頼ですか?

八木:そうです、実はこのパターンは、とても多いのですよ。その会社のOBを採用したから、機械さえあれば製品を製造できると言うのです(苦笑)。実際にそう言わなくても、仕様書、要求スペックを見ればすぐわかります。それで断った案件がずいぶんありました。結果的には、当社の競合が納入してしまったりするわけですが、こういう注文を受けると日本のお客様の信頼を失います。それよりも、日本のお客様ともっと上に行ける提案をしたいのです。

三宅:より苦しい道のようにも思えますが。

八木:機械メーカーは、一度作ったものをお客様がリピートしてくれれば儲かりますが、実際には、次の依頼では、前よりこうしてくれとハードルが上がってきます。だから苦労の連続なんですね(苦笑)。ハードルの高さを一度には上げられないから、毎回少しずつ上げていく。新しいことへの挑戦は一気にやろうと思っても無理で、ちょっとしたことを積み重ねていっています。でもこれを10年、20年と繰り返した結果が、今になっているわけです。

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