「中国、北朝鮮向け原油輸出停止」はウソ 統計だけでは絶対わからない、北朝鮮の実態

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6月16日に「東洋経済オンライン」でも報道した通り(「中国が北朝鮮向け原油を止めていない理由」)、パイプラインからの送油は一度止めてしまうと、再度送ることが難しいという技術的な問題がある。そのため、中国側の事情で北朝鮮向け原油を減らすことはできても、全面的に止めることは難しい。

さらにRFAは北朝鮮消息筋の情報として、北朝鮮には別の事情もあることを紹介している。それは、北朝鮮内の原油精製能力によるものだ。

原油が入っても、精製能力が不十分

現在、北朝鮮には烽火化学、勝利化学、南興青年化学といった工場があるが、これらを合わせた精製能力は年間700万トン。とはいえ、いずれの工場も1970年代に建設されており施設の老朽化が激しく、技術レベルもそれほど向上していないため、原油が入ってきてもその分を精製できないという事情があるという。そのため、北朝鮮は中国に「原油よりは、ガソリンや軽油など、すでに精製されたもの、あるいは原資材を今後も輸出してほしい」と要請しているというのだ。

「中国が北朝鮮に原油を輸出していない」というこれまでの報道の根拠は、中国側の税関統計に基づいたものだ。であるならば、ガソリンといった項目に北朝鮮向けの輸出量や輸出額が掲載されているはずだが、そうなっていない。

これには、中国側の統計が必ずしも現実を反映していない、あるいは意図して改ざんも行われていることが理由の一つ。また、ガソリンや軽油は中朝国境の各地からドラム缶に入ってトラックで輸入されることが多く、中国税関側もそれらをすべて把握することが難しいためだ。社会主義国の実態を見るには、机上のデータでは難しいことを、今さらながら感じさせる。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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