現地ルポ、英「日立製車両」亀裂トラブルの真相 一斉に運休、原因究明や運行再開の見通しは?

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ただ、スコットレールの主要路線であるエディンバラーグラスゴー間ではおりしも鉄道労組が車掌の賃上げを求めて1週間以上にわたりストライキを実施しており、相当数の列車が間引きされている。そのため、本来クラス385を使用する列車は他形式の車両によって運行されており、結果として「亀裂発生による減便」が打ち消される格好となっている。

一方、コロナ禍で乗客が激減しているとはいえ、主力車両が使用できない事態となっている主要幹線への影響は大きい。運行停止3日目となった5月10日、GWRの運行拠点であるロンドン・パディントン駅を訪れると、ホームには列車の姿がなく構内はガラガラ。発着案内ボードを見ると、確かにクラス800を使用する列車は全面運休となっていた。

GWRの駅案内員は「区間列車に乗り継げばなんとか目的地に行けるが……何度も乗り換えてもらうことになり申し訳ない」とひたすら謝る。ただ、乗客らにはメールやショートメッセージであらかじめ運休情報が流れているためか、駅での混乱はほぼ皆無だった。

コンコースではGWRの制服をまとったスタッフが、出発待ちの乗客たちにお茶を振る舞っていた。クラス800を使ったIETが止まったことで、車内サービスのお茶やお菓子が余ってしまったのだという。女性乗務員は、「まさかこんなところでお茶をお配りするとは……。運行が早く再開するといいですけどね」と普段にない体験に戸惑っている様子。筆者が「日本人なんですが……」と声をかけると、「ああ、HITACHIによく言っておいてください。早く正常に戻してくださいね」と厳しいジョークが飛んできた。

英鉄道の主力、早期の原因究明を

英国では長期にわたって、長距離列車にディーゼル車両「インターシティ125」が使われてきた。クラス800シリーズはこの置き換え用として、約40年ぶりに導入された新型車両だ。大きな期待を背負う中、運行開始初日に空調ユニットから水漏れを起こしたことから、トラブルとともに登場というイメージが拭い去れておらず、今回も英メディアでこの件に言及する例が目立った。

今回の亀裂発見のトラブルをめぐっては、日立が主に英国内の工場で組み立てた車両ということもあり、英国内で大きな注目を浴びている。これは同時に、日立製車両が英国の鉄道輸送の主力を担う存在となっていることの現れでもあろう。早期の原因究明と運行再開が待たれる。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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