冷凍餃子の「手間抜き論争」がバズった理由 「企業と生活者が共に紡ぐ物語」のつくり方

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冷凍餃子売り上げナンバーワンの味の素冷凍食品としても、冷凍食品に対するこのようなネガティブなパーセプションを変えることは、自社だけでなく業界全体としても課題であると認識していた。そして公式ツイッターの“中の人”自身、2人の子を持つ母だった。会社や業界が抱える課題半分、自分ゴトとしての本音半分のツイートであったのではと想像する。

担当者が自らの思いを込めた公式アカウントの投稿には「44万いいね!」がつき、「冷凍餃子」がツイッターのトレンドに入るほどの反響を呼んだ。こんなことは味の素冷凍食品としては初めての経験だ。これがきっかけとなって、キー局やネットメディアでも大きく報道され、いわゆる「冷凍食品は手抜き? 手間抜き?」論争が巻き起こった。

「ナラティブ」と「ストーリー」との違い

「冷凍餃子を使うことは、手抜きではなく、“手間抜き”です」という味の素冷凍食品の担当者からの投稿とその後の展開には「ナラティブ」が見てとれる。

「ナラティブ」を辞書で引けば、おおむね以下のような定義が出てくる。

ナラティブ(narrative): 物語。朗読による物語文学。叙述すること。話術。語り口。

物語ということは、いわゆる「ストーリー」とは何が違うのか?──ビジネスにおけるナラティブ概念を理解するには、まずその問いから入るのが自然だろう。ナラティブとは、いわばストーリーの上位概念だ。企業コミュニケーションの観点からは、大きく3つの違いで整理できるだろう。

1 「演者」の違い
2 「時間」の違い
3 「舞台」の違い

いわゆるブランドストーリーやコーポレートストーリーでは、あくまでも「企業が主役」で生活者は聴衆的な位置付けにすぎない。対してナラティブでは、むしろ生活者や企業ではないステークホルダーを主役とした語りが重視される。

ストーリーが「起承転結」という構造を持つのに対し、ナラティブはつねに現在進行形で未来に向けて紡がれていく。そして、その舞台は社会全体である。起点は創業者の強い思いや企業の存在意義(パーパス)だが、ナラティブの正体とは、社会の中で紡がれていく「物語的な共創構造」そのものなのだ。

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