地域主権改革の内実、国の責任の希薄化が社会保障を脅かす

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 そうした弊害は、先行して補助金が一般財源化(交付税措置化)された分野ですでに起こっている。たとえば、85年度に一般財源化された学校図書館の図書費では、国が交付税措置した額の77%しか、図書予算に計上されていない(09年度)。

また、がん検診では、98年度に老人保健法の対象から外されるとともに国庫負担金の一般財源化が行われ、大きな困難に直面した。「問題は受診率の低迷にとどまらない。検診の精度の低下や、有効性(死亡率低下効果)が確認されていない検診が自治体間に広がるといった、新たな問題が発生している」(国立がん研究センターの斎藤博検診研究部長)。

さらには公立保育園の運営費も04年度に一般財源化。「それ以降、財政難を理由とした廃園や、保育士の非正規職員化が加速している」(村山祐一・帝京大学文学部教授)。

本来、社会保障や教育では、ナショナルミニマム(国民に等しく保障された最低水準)をしっかりと確保すべきだ。そしてそれを上回る部分については、自治体や住民の判断で創意工夫を凝らしていくことが、地方分権の姿として望ましい。地域主権の名の下に、社会保障や教育に対する国の責任を放り出すとしたら、それこそ本末転倒である。

(岡田広行 撮影:梅谷秀司、風間仁一郎 =週刊東洋経済2010年5月15日号)

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