異色の地域農協トップが語る「自立」のススメ JA越前たけふ組合長、冨田隆氏に聞く

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とみた・たかし 1942年、現・越前市生まれ。65年JA武生市入組。2004年JA越前たけふ理事。10年から現職、現在2期目。

規制改革の最大のテーマとなった農協(JA)。そのJAグループで全国的に注目を集める地域農協がある。福井県のJA越前たけふ。コメの直接販売や経済事業(購買・販売事業)の分社化など、他に先駆けて改革を実行している。冨田隆組合長に聞いた。

──農協改革をどう見ているか。

今回の改革は、地域農協がもっとしっかりせいということだと思う。中央会が主導して地域を統括する協同組合から、下からの自主・自立型へ転換する時期になったのではないか。

かつて1万2000あった地域農協も、現在は約700。規模をこれだけ拡大して自立できないわけがない。TPP(環太平洋経済連携協定)時代を迎え、このままでは農業は立ち行かないという認識は広がっている。農家のための地域農協という原点に立ち返り、もっと汗をかかないといけない。

──2011年に上部団体を通さないコメの販売を始め、一般的には赤字の経済事業を昨年分社化した。

全農のコメの集荷・販売は、品質に限らず一律価格が前提。それでは農家に「いいコメを作ろう」というインセンティブが働かない。われわれは自前で食味・整粒検査の体制を整え、出荷するコメ1袋ごとに「食味値80、整粒値70%」といった検査結果を表示した。販売先は独自に開拓し、3年契約の自動更新を条件にした。それでも需要に追いつかず、来年度産のコメまで完売状態にある。

肥料は地域に合うように、メーカーと共同開発した。配送もこちらで引き受けることで、中間コストを削減。系統から仕入れるよりも、2~3割安く農家に提供できる。そうした結果、経済事業は分社化初年度から黒字を確保した。

実は農業振興に関して、うちほど条件の悪いところはない。山間部があり、冬は雪が多い。生産品目はほとんどがコメで、9割以上が兼業農家。それでも自立できる。生産者の理屈ではなく、消費者といかに向き合うかが重要だ。

──コメの減反政策も見直されることになった。

今年から「日本晴」というコメの栽培を本格的に始める。日本晴は粒が堅く、すしなどの外食用に向いている。コシヒカリより2割程度単収が多く、飼料用米への転用も可能。作付けは200ヘクタールから始め、5年後には1000ヘクタールへ広げる。1000ヘクタールというのは、今うちがやっている麦などの転作面積とほぼ同じ。来年からはアジアへの輸出にも本格的に取り組む。

今後農政がどう変わるかはわからないが、補助金の削減などがあっても、農家が自主的に対処できるよう、今から準備を進める。言い訳せずに現状に対応していく。

「週刊東洋経済」2014年7月19日号<7月14日発売>掲載の「この人に聞く」を転載)

並木 厚憲 東洋経済 記者

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なみき あつのり / Atsunori Namiki

これまでに小売り・サービス、自動車、銀行などの業界を担当。テーマとして地方問題やインフラ老朽化問題に関心がある。『週刊東洋経済』編集部を経て、2016年10月よりニュース編集部編集長。

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