「妻の自殺は誰の責任?」、福島の静かな危機 震災関連死裁判の行方

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静かな危機

幹夫さんの訴訟はまた、被災者を苦しめるうつ病という「静かな危機」にもスポットライトを当てることになる。

2011─13年に全国の自殺者数は11%減少した。福島県の自殺者数も原発事故前の数年は減少していたが、専門家によると、近年増加傾向にあるという。2011年4月以降、同県の自殺者は1500人以上に上る。そのうち、「東日本大震災に関連する自殺者数」として認められているのは54人だ。

政府は被災者の自殺予防に職員を派遣したり、地元の支援団体との連携にも力を入れている。一方、国費投入で救済された東電は1月に発表した総合特別事業計画で要賠償額の見通しを4.9兆円としている。

東電は現在、原発事故による精神的苦痛の代償として、避難住民全員にひと月当たり一律10万円を補償している。ただ、東電は柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働時期が大幅にずれ込む公算が大きくなっているなか、一段のコスト削減の必要に迫られている。

福島第一原発から10キロ圏内の浪江町の住民は先月、精神的苦痛に対する給付金の一律増額を求めたが、東電は応じなかった。

ふるさとへの思い

幹夫さんの自宅がある地区は、いまだに昼間しか立ち入ることができない。現在は仮設住宅で1人暮らしを送りながら、定期的に自宅に戻り、家族でバーベキューをしたりホタルを見たりした思い出の庭を手入れしている。

事故後、渡辺さん一家は避難所などを転々とし、ようやく福島市小倉寺の小さなアパートに落ち着いた。だが、はま子さんは自宅に帰れず、子供たちとも離れ離れになり、アパート暮らしにはなじめなかったという。

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